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  • 【2006年8月29日】

    生かされていない大災害支援の教訓
    日本の体制、総合的な見直しが急務

    世界週報
    2006年8月29日

    民主党国際局副局長
    前衆議院議員
    藤田 幸久

    インド洋大津波(2004年12月)、パキスタン大地震(05年10月)、ジャワ島地震(06年5月)と相次いだ大災害。日本政府は様々な支援を行ったが、貴重な現場体験が政策実現に生かされていない。そして、迫りくる日本国内での大災害の防災対策の不備が浮き彫りになっている。危機管理、医療システム、政府開発援助(ODA)体制、非政府組織(NGO)支援なども含めた総合的な見直しが急務だ。

    外国からの支援を制限したインドネシア政府

     私は、インド洋大津波、パキスタン大地震、ジャワ島地震の現場を、民主党調査団の一員として相次いで視察する機会を得た。6月に訪問したジャワ島では、脆弱(ぜいじゃく)な住宅と軟弱な土壌(火山灰)による家屋崩壊によって6000人ほどが犠牲になったが、マグニチュード6.3とインド洋沖地震・津波やパキスタン地震に比べれば震度の低い地震であった。
     インドネシア政府の対応は早く、発生当日にユドヨノ大統領が現地に入り、地元住民に最も影響力のあるスルタン(イスラム王、ジョグジャカルタ特別州知事)と連携するなど、極めて迅速な初期活動を行った。
     (1)スマトラ、スリランカ、パキスタンなどのような紛争地域ではない(2)空港や道路も破壊を免れ、パキスタンのような山岳地帯でもなくアクセスが良好であるーなどの理由から国際NGOなどによる支援も選択的な支援活動となった。
     インドネシア政府は、医療、食料、テントなどの緊急援助の対応は整ったとして、住宅建設や水道修復などの生活復興支援に重点を移し、外国からの支援も将来打ち切るとの方針を早々と宣言した。面会したスルタン(知事)は、被災した住民と、被災していない住民との間の「援助格差」が生じないような、地域の秩序を尊重する復興に強い意欲を示した。インド洋沖津波の際に対応の遅れを批判された政府の汚名ばんかいへの意欲や、外国からの傲慢(ごうまん)な援助に対する反発などが、背景にある。

    地震は自然からの警告

     しかし、実際の現場では「食料が届いていない」というお年寄りや、「ミルクも全然無い」と訴える赤ん坊を抱えた母親と出会った。貧しさが理由で貧弱な家に住み犠牲となった多くの住民などへの支援が欠けているのではないかと懸念した。
     そうした心配の中、7月17日にはジャワ島南西沖で地震が発生し、その津波によって600人近くの犠牲者が出た。日本やアメリカの津波情報センターがインドネシ  ア政府に津波の危険性を知らせたが、住民には伝わらなかったという。一昨年のインド洋大津波の際、インドネシアは火山国だが津波などの被害の経験が少ないといった報道もされたが、過去3世紀の世界の火山災害のワースト3は全てインドネシアで、合計15万人が犠牲になっているという。インド洋大津波でインドネシアだけでも17万人程が死亡していることと併せて、住民の命を尊重する為政者の姿勢が求められるゆえんだ。
     毎日新聞は、5月の地震直後の民間機関による世論調査で、「相次ぐ地震は、インドネシアへの自然からの警告か?」という質問に78%がイエス。「天災はユドヨノ政権に対する怒りだ」と言う人が52%だったという結果を、報じている。スハルト長期政権で根づいた官僚機構の腐敗や機能不全などに対する民意の表れだという。
     近年のアジアの自然災害が、軍事政権による紛争地域で相次ぎ、多くの一般住民が犠牲になっているという事実を前に、そうした国々に対して、ガバナンスや人間の安全保障といった観点を重視した、国際社会からの進言も必要ではないか?

    ぬぐえない日本政府ODAの不透明性

     本誌1月24日号の拙稿「インド洋大津波とパキスタン大地震の現場から」でも触れたように、インド洋大津波の緊急支援のために05年1月に日本政府からインドネシア政府に振り込まれた146億円のうち、最も緊急であるべき医薬品約6千万円相当がやっと9月に納入され、1年半経った今でも32億円しか使われておらず、82億円の支出が確定しているものの、約60億円は未確定という驚くべき実態がある。5月の白眞勲参議院議員の質問で、初めてこの事実を知って驚いた安倍晋三官房長官も「緊急性のあるものは、必要な時に届くように手配をしていく」と答えるのが精一杯だった。
     しかし、その物品の調達、業者選定や資金管理などをまとめて委託されている、外務省の外郭団体「日本国際協力システム(JICS)」が、インドネシア公共事業省から、道路工事47億円の入札が「透明性に欠ける」と指摘されていたことが読売新聞の調査で明らかになった。受け入れ国の指摘で入札やり直しという前代未聞の事態となり、緊急を要する援助が更に遅れることになった。他にも、放送局用の事務机を、遠いジャカルタの1社だけが値札を入れる入札で受注し、現地価格の2倍以上で調達したことも白参議院議員が指摘している。

    アジア諸国の調整役果たす日本のNGO

     既に述べたように、ジャワ島地震では、専門分野に特化した政府機関やNGOが支援活動を行ったが、その中核が医療チームである。今回は、アジアに頻発した大災害の経験から、従来の欧米諸国に加えて、多くのアジア諸国の政府とNGOが支援に駆けつけるという新しい展開が見られた。また日本の医療NGOである「AMDA」や「災害人道医療支援会(HuMA)」、そして日本赤十字が、アジア諸国の医療チームとネットワークを組み、その調整役を担っていた姿に敬意を表したい。緊急医療のマニュアルを英語で作り通常医療との違いを説明し、国別の医療方式の違いの調整を行い、異なる文化の看護師同士のチームワークを図るといった地道な活動を行っていた。

    災害支援体制の抜本的再構築を

     今回、日本の人道援助の常連のNGOが選択的な支援に留まり、現地への参加を見合わせた理由は、既に述べた理由の他に、各国で続発した災害現場に人材を派遣しており、資金的にも人材的にも「延びきってしまった」ことである。これも1月24日号の拙稿で書いたことだが、アメリカ政府のODAの緊急援助分野におけるNGOへの拠出金額の割合(2002年前後)はアメリカ68%、欧州連合(EU)62%、イギリス61%、ドイツ31%に対し、日本は2~3%である。(1月の論文では6~7%としたが訂正)。日本政府によるNGOへの財政援助をこれら諸国に近い二ケタに増大すれば、上記のようなインドネシア政府に対する146億円をめぐる不透明性も、1年半で4分の1しか使われないということもなく、被災者に「顔の見える援助」を行うことができる。併せて、国際協力機構(JICA)なども含めた「緊急支援人材バンク」のような人材育成と研修システムの構築を早急に行うべきである。
     今回現地に展開した日本のNGOは医療支援が主で、多くの被災者の人命を救うことができた。しかし、診療所などにおいても他国の医療NGOの充実した後方支援体制を目の当たりにした。専用機による現地入り、それに伴う医薬品や機材の携行、豊富なスタッフ体制、自己完結型の設備などである。自衛隊医療チームは政府専用機やC130輸送機などで現地入りするなど、これらの要件を備えていたが、現地診療所を開設したのは、6月3日で、地震発生から1週間後である。しかも総勢150名、設備なども高くつき、更には到着が遅いことによって、「良い場所」は他国の組織に先を越され、ニーズの低い場所での開設となった。
     もともと、国際緊急援助隊医療チーム(JMTDR)を立ち上げた山本保博・日本医科大学教授らが、災害医療の経験を持つ医師や看護師、検査技師、薬剤師、放射線技師などで、前述のHuMAという特定非営利活動法人(NPO)を設立したのも、政府系の国際緊急援助隊医療チームでは、相手国の要請がなければ現地入りができないなど、時間が勝負の緊急医療での悔しい経験から、機動力を持つNPOを立ち上げたと言われている。
     昨年のパキスタン地震では、国際緊急援助隊のレスキューチームが民間機を乗り継いだために、現場到着までに52時間を要し、せっかく最新の機材を持ちながら人名救出はほとんど担えず、主に遺体発掘作業に終始した。ジャワ島地震でも 国際緊急援助隊の医療チームが、民間機利用のため十分な医療機材を持ち込むことが出来なかった。
     かねてから提言しているように、政府は、国際緊急援助隊が政府専用機を活用できる体制を整備するとともに、民間チャーター機の活用も含め、NGOによる迅速な現地入りを支援すべきである。自衛隊が管理する政府専用機は派遣手続きに手間がかかるという言い訳を耳にするが、9.11同時多発テロの翌朝、羽田空港に政府専用機と国際緊急援助隊が終結して待機していたという“実績”もあるのだから、政府首脳の決断次第だ。チャーター機にしても、日本航空や全日空などが柔軟性に乏しくとも、世界にはチャーター機会社や、民間機が飛ばない地域を専門に飛ぶNGOの航空会社も存在する。紛争地域では大手のNGOが自前の飛行機を飛ばしている。そもそもジャンボ機よりも、中型・小型飛行機の方が適している。これらの可能性や、日本の大手企業の自家用機を登録しておくことなども、国際緊急援助隊の事務局を努めるJICAの担当者には伝えてある。
     そして、今回HuMAやAMDAの方々とお話してわかったことは、日本の医療体制そのものの不備である。看護師はもちろん医師などが所属する病院などから休暇を取って被災国に出向くことは難しい。病院は自らの経営を優先し、派遣を許可しない場合が多い。そこで「医療スタッフ人材バンク」の設立、主治医制度に代わるチーム医療の普及など医師派遣の後方支援システムの確立が急がれる。

    国内の大災害の防災対策とも表裏一体

     これらを通して明らかなのは、日本は海外での自然災害支援の発展途上国であり、それは即ち、迫り来る国内の大災害対策においても発展途上国であるという現実である。緊急時に、病院を離れられる医師や、経験あるNGOのコーディネーターが少なく、それらの人々や機材や犬を運ぶ独自の輸送手段に乏しいということは、例えば九州や北海道で大災害が起きても、他の地域の経験ある組織化された専門チームは駆けつけられないということと同じだからだ。
     山本保博教授は、現代の災害は極めて複雑化したと指摘する。戦争や紛争、地震やハリケーンなどの自然災害、核・生物・科学兵器、原子力発電所の臨界事故、サリン事件、鳥インフルエンザなどの新興感染症なども含まれるという。世界保健機構(WHO)は、「もはや、地球上のどこでも安全な地域はない」とまで言い切っている。
     迫りくる災害に対して、政治や行政の仕組み、社会の意識や体質そのものを変える抜本的な取り組みと対策が必要だ。

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