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  • 【2001年11月1日】

    アメリカ同時テロ事件についての対応を提言

    「世界と議会」
    2001年11月号

    報復の循環に代わる和解の循環

    ―テロに対抗するもう一つのグローバリゼーション―

    前衆議院議員
    藤田幸久

    1. テロ活動の温床や構造を変える戦い

      米国同時多発テロは、人類全体の秩序、文明、人間の尊厳に対する卑劣な挑戦であり、テロとの戦いは国際社会が取り組むべき21世紀最大の総力戦となった。日本はただ単に日本人被害者が出た「巻き添え国としてではなく、挑戦を受けた当事国の一つ」として主体的な行動をとるべきである。

      今回のテロ事件の衝撃は、世界の権力と富が集中する唯一の超大国の安全保障と経済の象徴が破壊されたことにある。そして、その残忍な手段と未曾有の打撃効果に対して、各国指導者の圧倒的支持を得た米国の報復が始まった。

      アメリカは、今回の戦いは文明の衝突でも、イスラムとの宗教戦争でもなく、テロに対する 「21世紀の新しい戦争」 と位置づけた。確かに、テロ活動そのものは宗教や文明ではないが、 「貧困と宗教やイデオロギーが結びついたところに革命家やテロリストが生まれる」(柳田邦男)という原点に立ち返り、「テロ活動の温床や構造を変える戦い」に挑まなければならない。

      日中戦争や、ベトナム戦争では、農民や行商人の姿をしたゲリラによる奇襲が勝利をおさめた。それ以上に今度は、隣りの学生や、学者や、ビジネスマンが、国境を超えたテロリストであるという「見えない敵との戦いであり、街の中に前線がある戦い」である。更には、20世紀の戦争は軍備に勝る国々が勝利を収めたのに対し、テロ集団は「攻撃する相手の民間航空機、新幹線やカード情報などを手に入れ、自らの武器として使用することができる。」 テロリストは、市民に混じり、駅や、テレビ局、原子力発電所といった市民社会の象徴を攻撃することがでる。しかも、 「自らが信じるものに殉教して天国に行く!」 と信じる確信犯の自爆行動を事前に防止することも極めて難しい。

    2.テロを支える心の武装解除

      こうして、無差別テロという手段やテロリストが使用する武器を武装解除することは不可能に近い以上、「テロを支える人々の心を武装解除」するしか本質的な解決方法はない。言い換えれば、氷山の一角としてのテロの下に潜む多くの民衆の心をつかむ心理戦と宣伝戦で勝利を収めなければならない。それには、テロの温床と構造を形成する「重層的な格差」を解消しなければならない。

     グローバリゼーションは、世界の開放性と市場性を高め、金や情報や文化の恩恵を人類にもたらした。しかし、弱肉強食の市場原理の影となった人々は、失業、貧困と飢餓、腐敗、暴力や抑圧、法の不在と犯罪、麻薬、環境破壊、内戦と地雷による被害など逃げ場のない状況に追い詰められている。

      例えば、私が長年難民支援に訪れているカンボジアでは、乳児死亡率10%、5歳以下の栄養失調56%、貧困人口36%で、アジアで最悪の数字である。給料は必要生活費の5分の1に過ぎず、多くの軍人が強盗に、警官は泥棒に、税官吏は密貿易によって生計を立てている。援助が一般市民にはあまり届かず、貧富を拡大させた。この国の最大の産業は森林の不法伐採、麻薬密売、売春、カジノであるが、伐採によって森林面積は10年間に国土の50%から25%に減り、かんばつや洪水を生んでいる。与党や軍の高官がこれらのビジネスで私腹を肥やす。日本を含む海外からの援助のあり方が問われている。

      これよりはるかに悪い状況がアフガニスタンにある。「干ばつの被災者1200万人、そのうち400万人が餓死線上。首都カブールは無医地区で、干ばつで逃げてきた農民からなる人口100万人の3,4割が慢性栄養失調状態」(日本人医師中村哲さん)という。50万人の身体障害者の孤児と数百万人の未亡人がいる、とも言われる。緒方貞子前国連難民高等弁務官が「アフガニスタンは、極端にいって、世界に見殺しにされた国」と言うように、欧米に使い捨てにされた悲劇の縮図がある。

    3. グローバリゼーションの影の除去

      このように、グローバリゼーションや地域紛争の影は、先進国には想像もつかない範囲と規模で世界中に拡がっている。柳田邦男氏は、テロの温床となる貧困は「衣食住の貧しさに限らず、心の渇きや社会的(国際的)矛盾への怒りなどの比重が増大している」と述べている。テロとの戦いは、こうした憎しみや死をも恐れぬ怒りの温床を取り除く戦いである。

      米国は近年、民族浄化阻止やテロ制裁といった大義名分はあったにせよ、リビア爆撃、パナマ侵攻、スーダンへの攻撃、イラク空爆、ユーゴ・コソボ空爆で結果的に多くの無実の市民の命を奪った。また、最近の中東政策に関して英国のファイナンシャル・タイムズ紙は、「米国政府がイスラエルの強引な政策を許容したことが、対米テロを促進したことは間違いない」と直言している。

      ブッシュ新政権が地球温暖化防止京都議定書からの離脱、ミサイル防衛計画の推進、包括的核実験条約(CTBT)の批准放棄、国連差別撤廃会議のボイコットを相次いで行ったことが、覇権国家のイメージを強めたことも見過ごせまい。

      私はテロを擁護するつもりは毛頭ない。米国の友人の娘も今回のテロで殺された。しかし、結果として起こったテロの根を摘み、犠牲者の霊に報いるためにも、テロの温床の遠因にまで逆のぼって対応するしか道はない。米国だけでなく、我々先進国全体が速やかに対応すべき大問題である。「大きな不公正とか、暴力があるところは、なかなかテロは抑えられません。軍事力と同時に政治解決も必要でしょう。」と緒方貞子さんが述べているとおりである。

    貧困、環境、人口、差別、過剰債務、エイズ、対人地雷などの問題は冷戦後、国連やG8サミットなどでも取り上げられたが、各国のエゴの壁に阻まれ乏しい結果に終わっている。国際社会全体が様々な格差を是正して、「倫理性を備えたグローバル化」(ベルギーのフェルホフスタット首相)を目指す時だ。20世紀の負の遺産の清算こそが21世紀のテロに対する答えだ。

    4.過去の清算と和解のグローバリゼーション

      今もう一つの余り知られざるグローバリゼーションが起きている。道義的、人道的な視点から「過去の過ちを清算する」という潮流が世界中に広がっている。第二次大戦中の日系人強制収容に対するブッシュ元大統領による謝罪と補償(1990年)、奴隷や黒人差別に対する米国市民の謝罪行進(1993年)、第二次大戦中のユダヤ人迫害に対するフランスのシラク大統領の謝罪(1995年)、ナチに追われたユダヤ人を追い返したことに対するスイスのフィリガー大統領の謝罪(1995年)、カトリック教会がホロコストのユダヤ人を救えなかったことに対するローマ法王の謝罪(2000年)、原住民アボリジニー迫害に対するオーストラリア市民百万人の謝罪行進(2000年)などである。

      これらは、長年伏されてきた事実が情報開示されたり、当時は戦争状況下で行われた慣行が“現在における正義や人道の基準”に基いて新たに謝罪の対象となった結果である。過去の当事者に代わって“現在の当事者”が謝罪している。これらの謝罪は後ろ向きの“自虐的行動”ではなく、未来への責任を果たそうとする“自尊的行動”であり、謝罪を受けた人々ばかりか、謝罪した指導者の国民からも支持と尊敬を受けている。過去の負担からの解放は両国の市民にも尊厳と勇気を与えるからだ。

      市民が関わる和解は循環し、人の心を動かし和解の連鎖を起こす。靖国神社参拝が今夏問題になったが、私は1995年に、第二次大戦中にビルマ戦線で戦った元イギリス兵と元日本兵のお供で靖国神社を参拝したことがある。国籍や軍人・民間人の違いを超え、敵同士であった元兵士達が戦没者に哀悼と尊敬の気持ちを捧げている姿に深く感動した。

      この靖国神社を参拝した元イギリス兵達は、一昨年天皇陛下夫妻の英国訪問に際し、一部の元軍人が反対デモを行ったのに対して、BBCテレビなどで天皇訪問歓迎の主張を述べてくれた。これらのことが起こったのは、両国の兵士が一緒にクワイ川の戦場を訪問するなど、長年の信頼醸成の交流があったからである。いわば 「加害者側(日本)の真摯な誠意と被害者側(イギリス)の許し」 とが信頼を築き、 “心の武装解除” を実現したわけである。

    5. 米軍捕虜強制労働訴訟の政治的和解を

      一方、今アメリカでは戦争中の日系企業による強制労働に対する元捕虜からの訴訟が相次いでいる。サンフランシスコ講和条約50周年記念式典(9月8日)に抗議して、アジア系アメリカ人と「講和条約粉砕、日本の戦争責任追及」の国際会議を開くなど、アジアや欧州も含めた反日キャンペーンが拡がっている。アメリカ議会も、訴訟を支援する法案を次々と可決した。

      しかし日本政府の対応は「サンフランシスコ講和条約で法的に決着済み」を繰り返すばかり。田中真紀子外相も、講和条約50周年式典で村山元総理談話による謝罪の“確認”をしただけでお茶を濁した。これでは元捕虜の反発を買うばかりか、前述の世界の潮流に逆行する日本のイメージだけが際立った。

    この問題に関しては、ドイツ企業と政府が2000年に50億マルクずつを拠出して、第二次大戦中の強制労働に対する補償のための「記憶・責任・未来基金」を設立した好例がある。法的には勝訴の可能性が高かったドイツ企業が法廷外で和解し、しかもクリントン米大統領とシュレーダー独首相にこれが“最終決着”であることを認めさせている。

     日系企業も、法廷で勝つ可能性は高いが、それでは長年にわたって国際世論や不買運動による洗礼を受け、はるかに高い代償を蒙る可能性が高い。もはや、法解釈だけでの門前払いは、却って相手の感情を逆なでし、火に油を注ぐことになりかねない。表面上は日本側の“法的立場”を支持している米政府が、本音では日本に早期の政治決着を望んでいるのも、靖国神社問題や歴史教科諸問題を含め、“過去の清算能力”のない日本に不満を抱いているからである。

      そこで私は、来年4月の講和条約発効50周年を目標に、関係者による以下のような政治的、人道的な解決をはかることを提案している。
    (1)関係日系企業の連携による、法廷外での和解。(2)提訴中の高齢の元捕虜が生存中に解決することを優先する。(3)捕虜個人に対する日本政府による象徴的な謝罪。(4)これら解決案についての米国政府との合意。

        私が今敢えてこの問題を取り上げるのは、今回のテロ事件で日本がアラブ世界やアジア、欧米の間で仲介活動や非軍事的、人道的貢献を果たすためには、自らが20世紀の負の遺産の清算を果たして、世界の信頼を勝ち取っておくことが前提条件であると感じるからである。

    6. 和解の循環を

      冷戦後の問題解決を目指して国連が提案した「平和への課題」や「開発への課題」は充分な成果をもたらさなかった。予防外交を提示した「平和への課題」は常任理事国との摩擦もあって頓挫し、「開発への課題」も加盟国の足並みが乱れた。私は1996年にスイスのMRA平和会議で「和解への課題」というセミナーを提案し、以来毎年紛争当事者を招いた対話が行われているが、真の和解がなければ長期的な和平や復興が実現しないことを益々痛感している。中東のオスロ合意が挫折し対立が再燃したり、ボスニア紛争が、コソボ、マケドニアへと玉突き的に拡大するなど、冷戦後の地域紛争和平の失敗事例が多い。

      戦後欧州の長期的復興と民主的発展の基礎になったのは独仏の和解である。国境を接し100年間に3度も戦った両国の6千人の国民が5年間にスイスの和平会議で寝食を共にして和解し、対立の原因となった鉄と石炭を9カ国で共同管理することによって紛争の根を摘み、後のEEC,EU,そして今日のEUを創設した。和解プロセスの中で、様々な戦前の国内格差の是正と社会的、経済的、歴史的対応を行ったことがその成功の大きな理由である。

      今回の同時多発テロが、報復が報復を呼ぶ憎しみの悪循環に陥らないためには、国際的な英知と連携が不可欠である。テロの温床を断つには、内外の様々の格差を解消すると同時に、先進諸国のこれまでの振る舞いの謙虚な反省と変更が不可欠である。グローバリゼーションの影に対する経済的、社会的、構造的対応に加えて、自爆テロの根を絶つには、当事者間の深いレベルでの信頼醸成と和解の根を育むことが不可欠である。「報復の循環に取って代わる和解の循環」を同時多発させて、すでにある世界的潮流を加速化すべきである。

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