ブログ

法務省で、弁護士試験回数制限の問題提起2012年01月27日

 法務省で開催された「法曹の養成に関するフォーラム」(座長:佐々木毅元東大総長)に出席しました。司法試験、予備試験結果報告が行われた後、私は最近私に寄せられた以下のメールを紹介しました。

 

「司法試験は回数制限があって大半の受験生が受験資格をはく奪されるのです。勉強する機会さえ奪われるのです。未習者の合格率が16%なのに。政府が約束を破棄し、権利を奪われ絶望して自殺した人もいるのです。回数制限さえなくなれば、卒業後、就職したり選択肢が選びやすくなるし、生活ができる。生きていけるのです。回数制限を廃止して下さい」

 

そして、以下のニューヨークタイムズの記事を添付して下さいました。

 

高い障害を設定する、日本の司法試験 (仮訳)

The International Herald Tribune  By MIKI TANIKAWA

2011710

 

オオツカカズヒサさん、31歳は、2年前に横浜でロースクール(以下、法科大学院とする)を卒業した。しかし、彼は、今年初めて司法試験を受ける予定である。

 

彼は、テストの準備をする前に、簡単に司法試験を受けたくはなかった。彼は、桐蔭横浜大学の法科大学院で、3年間の大学院を卒業してから、彼は朝の9時から、ほとんど休憩なく深夜まで、猛烈に勉強の日課をこなしている。

 

「私は、ずっとこうして勉強してきた。」と、彼は言う。「そして、週末も変わらない。」

 

彼が、試験を待って勉強するのは、今回の司法試験が非常に挑戦的な性質を反映しているからだ。2004年に発効された日本の法科大学院のためのシステムには、新しい司法試験要項が含まれ、試験を受験できるのは3回までと限られており、オオツカ氏は、試験に挑戦する前に十分な準備ができているようにしたいと考えている。この改革の前には、司法試験を受けるための回数制限はなかった。

 

「私は、私の故郷である前橋に戻って、弁護士として働きたい。」と、彼は言う。彼の父は、長い間、地元の弁護士である。

 

オオツカさんだけでなく、他の何千人もの人々が、司法試験を受けるために、準備に長い時間を費やしている。昨年、司法試験合格者は、受験者の25%であるたったの2074人で、2006年に新試験を取り入れて以来、最も低い合格率であった。

 

合格率は、改革前の2%〜3%よりははるかに高いが、法科大学院のシステムにより、法律を学ぶ学生たちの新しいグループが作られ、学校には数年間、授業料のために数百万円を支払いながら、司法試験では失敗している。

 

この低い合格率に対し、法学部大学院の新しい卒業生らは一種の危機感を抱いていた。それは、2004年にシステムの変更後に生じたものである。その変更がめざしたのは、とりわけ認識されてきた弁護士不足を緩和するために、多くの弁護士を生み出すことで、特に地方都市での問題である。しかし、法科大学院への新入生の数は、最近減少している。

 

74の法科大学院のうち、2校は2010年に合格者がなかった。1つの学校は閉鎖され、他の学校は学生の受け入れ数の再編成又は削減を行った。今年、法科大学院は全国で3620人の学生を受け入れたが、ピークであった2006年の5800人から減少している。

 

「多くの学校がありすぎるのは、皆、わかっている。」ナカヤマコウジ氏は言う。彼は、日本法科大学院協会副事務局長であり東京の明治大学法学部教授である。「法科大学院それぞれは、自主的な方法で定員を削減している。」

 

認定の甘い基準のために、あまりにも多くの大学が制度改革後のどさくさに法科大学院を設立することを許可されたと言う評論家もいる。

 

「大学は、教育の新たな分野を広げる方法を探していた。というのは、減り続ける若い人口構成は、大学プログラムにとって深刻な問題であるからである。」ある法務省の高官は話す。彼はメディアに話をすることを許可されていないので、匿名を主張した。「また、法学部を持つ大学は、法科大学院を設定せざるを得ないと感じていた。また、法科大学院としての存在していないと、生き残ることできないと考えた。」

 

司法試験を管理する省庁は、特定の批判に対しての反論は行わず、省の見解は、www.moj.go.jp/Webサイトに掲載されている新しい試験に関する公式文書に詳述されていると言及するだけであった。

 

新しい学校の認定を担当している文部科学省は、非難を浴び、ずさん過ぎると糾弾されている。

 

法科大学院の教授や学生の多くは、問題の本筋は、多過ぎる学校が存在していることではなく、司法試験に合格することが非常に難しすぎることである、と言う。

 

ゴトウアキラ氏、東京の一橋大学法科大学院における刑法の教授は、司法試験問題はあまりにも高度で複雑すぎると言う。

 

「私は、刑法の専門家なので、刑法のテスト部分と憲法関連のいくつかは答えられるであろう。」と彼は言う。「しかし、もし私が今、法科大学院の学生として、数年の間、司法試験に必要とされる他の法律を学んだとしても、合格できるかどうかは、私自身わからない。」

 

彼の学校は、司法試験のトップクラスの合格率を維持していることで知られているが、それでも、昨年は、卒業生の50%しか合格しなかった。

 

ダン・ローゼン氏、彼は、東京の中央大学大学院でアメリカの法律を教えているが、司法試験の難易度と同じように、テストの主旨に戸惑っている、と話す。日本の司法試験、特に、第一段階の法律知識に関する厳しい多肢選択式テストでは、良い弁護士になれるかもしれない人々がふるいにかけられている、と彼は言う。

 

「このテストで報われるのは、数年間勉強机に座って、あなたの鼻と法律書のページの間で行われる本の学習のようなものだけである。」と彼は言う。「日本には、本の学習と暗記に対して偉大な信念がある。司法試験では、かなり大きな範囲でそれが反映されている。」

 

法科大学院の教師や管理者は、低い合格率のために、政府によって設立された司法改革の目的をくじいている、と言う。その改革は、10年前に始まったものである。2001年、日本の法律と司法制度を再設計するための青写真は、政府の諮問機関が作成したもので、改革派首相であった小泉純一郎の内閣で採択されたものである。それは、2010年を目処に、毎年3000人の弁護士を生み出す目標で、司法試験をライセンステストに作り直すことを目的とした。その報告書は、法律の専門家が起草したもので、医学、ビジネス、テクノロジー、外国語のライセンスや知識を持つ人々のように、より多様な背景を持つ人々を受け入れるための新しい司法システムと呼ばれ、より成熟化、多様化、複雑化した社会のニーズを満たすためのものであった。

 

以前のシステムでは、毎年の司法試験に合格することができたのは、わずか1,000人だけであった。以前は、法科大学院はなく、大学法学部があっただけで、弁護士を養成することを意図するものではなかった。そのため、弁護士になりたい学生は、競争力の高いテストに合格するまで、通常は数年を費やし、受験者を多様化させないような条件下で、自分自身で勉強しなければならなかった。新システムは、大学院のプログラムとして弁護士の訓練を想定し、米国と同じように、学校入学者のほとんどが最後に司法試験に合格できるものであった。

 

そのため、受験者の6070%が合格できるという公式目標を掲げた新しいシステムが2004​​年に登場し、自分のキャリアの経験に法律の勉強を組み合わせることを望む、一般の受験者、医師、ビジネスマン、その他の専門家たちが法科大学院に入った。

 

法学教授らは、法科大学院制度が始まった当初は、すべてのクラスに医師が1人は含まれ、30代以上の人ばかりだったと言う。

 

「しかし、すべてのそれらの人々は、今、ほとんどいなくなっている。」フィリップ・オステン氏、彼はドイツ人弁護士と慶應義塾大学法学部教授で、彼のクラスに在籍していた医師は、司法試験に3回失敗したと言った。「人々が、自分のキャリアを維持しながら、法科大学院に挑戦したり、法科大学院で学んだりすることは、リスクがありすぎて不可能である。もう、誰もやってみようとは思わない。」

 

「今の学生のほとんどは、大学法学部からそのまま来ている。」彼は言う。

 

学生と教授たちは、政府と法制度を改革するという約束に裏切られたと言った。

 

「彼らは、受験者の6070%を合格させるという約束を破った。私は、これは国が犯した大きな詐欺だと思う。」オステン氏は語る。「ドイツだったら、これは訴訟ざたになっているところだろう。」

 

司法試験は、弁護士、裁判官、検察官や法科大学院の教授委員会と、法務省の深い関与によって運営されている。

 

法学大学院の教師や生徒の間では、新しいシステムになると、あまりにも多くの弁護士を市場に氾濫することを恐れて、弁護士らが司法試験の合格人数を制限するように法務省に圧力をかけている、と言う。

 

「法律サービスの市場が、政府によって管理、制御されるべきあるという信念があるように思われる。」オステン氏は言う。「これでは、専門職としての真の自由はない。」

 

匿名を条件に、取材に応じた法務省の関係者は、受験合格者の数に対して、任意の制限はないと否定した。「多くの受験者は、合格にふさわしいレベルにははるかに達していない。」と、その法務省関係者は言う。

 

法務省は、公式コメントを避けた。

 

モリヤマフミアキ氏、彼は名古屋に拠点を置く弁護士で、日本弁護士連合会における法制度委員会の副会長として働いているが、弁護士の団体からそのような圧力はない、と否定した。

 

「それは、絶対に嘘だ。」と彼は言う。新制度の下で輩出される弁護士らは、スキル面においてはかなり物足りない、と彼は言う。司法試験合格後の研修の一環として、日本の最高裁判所によって行われるテストの結果を知り、彼は言う。「我々は、司法試験を合格した研修生が行う回答レベルに愕然としている。これは、その一例である。」

 

しかし、カバシマヒロユキ氏、彼は東京の弁護士で日本弁護士連合会でも働いているが、多くの弁護士が弁護士倫理だけでなく、法律サービス市場を弱体化していると心配する、と言う。

 

「完全就業状態ではない弁護士が、ヤミ金融での作業など非倫理的な任務に就いている事例が増加している。」と彼は言う。

 

韓国では、同様の制度移行を進めているが、韓国政府は、日本の新しい法科大学院で起こった問題を見て、日本ほど自由ではなかった司法制度の改革を制定した。

 

2009年に韓国で発表された法科大学院のプログラムでは、韓国政府は認定校の数を25校に制限し、年間の学生の総数を2000人に制限した。法科大学院は、2009年に開始し、最初のクラスは、来年卒業する予定である。学生の約75%が、司法試験に合格するものと見込まれている。

 

韓国のやり方を批評する人には、入学者数を制限すべきではなく、もっとアメリカのやり方を目指す必要があるのではないか、と言う人もある。

 

「韓国では、司法試験に合格する競争が、単に法科大学院に入るための競争に置き換えられているだけである。」キョンシンパーク氏、ソウルの韓国大学法学部教授は語る。「このような制限があってはならない。」

 

  これに対し、東京大学の井上正仁教授は、「以前の制度だと2~3%の合格率であったものを上げることや、何度でも受験する人が多いと他の多くの人のチャンスが減るので導入された制度である。3年で3度としたものを5年で5度とせず、3度または5年という期限を設けたものである。韓国の場合は、上から強制的に決められる環境があるので、法科大学院25校、生徒2500人というふうに決められたが、日本ではそうしたことはできない」と経緯を説明しました。

 

 これに対し、立教大学の山口教授は「3回以上受けることの問題点を明らかにすべきだ。受験する側からすると、制限する何か余程の理由がなければ不満が出る。制限する説得力ある理由が必要だ」と述べました。

 

 今後また議論を続けることになりました。

 

 

 

----