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日銀金融政策決定会合(11月15日、16日)要旨2012年01月11日

 日本銀行金融政策決定会合(11月15日、16日)の議事概要です。財務省を代表しての私の発言もございます。

公表時間12月27日 (火) 8 時50 分

本議事要旨は、日本銀行法第2 0 条第1 項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2011 年12 月20日、21日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

(開催要領)
1.開催日時:2011 年11 月15 日(14:00~ 16:06)
11 月16 日( 9:00~ 12:44)
2 . 場 所:日本銀行本店
3.出席委員:
議長 白川方明 ( 総 裁)
山口廣秀 (副総裁)( 注)
西村淸彦 ( 〃 )
中村清次 (審議委員)
亀崎英敏 ( 〃 )
宮尾龍蔵 ( 〃 )
森本宜久 ( 〃 )
白井さゆり ( 〃 )
石田浩二 ( 〃 )
( 注) 山口委員は、参議院予算委員会出席のため、15 日15:12~
16:06 の間、会議を欠席した。
4.政府からの出席者:
財務省 佐藤慎一 大臣官房総括審議官(15 日)
藤田幸久 財務副大臣(16 日)
内閣府 梅溪健児 政策統括官(経済財政運営担当)(15 日)
石田勝之 内閣府副大臣(16 日)
( 執行部からの報告者)
理事 中曽 宏
理事 雨宮正佳
理事 木下信行
企画局長 門間一夫
企画局政策企画課長 神山一成
金融市場局長 青木周平
調査統計局長 前田栄治
調査統計局経済調査課長 関根敏隆
国際局長 大野英昭
( 事務局)
政策委員会室長 飯野裕二
政策委員会室企画役 橘 朋廣
企画局企画役 上口洋司
企画局企画役 浜野邦彦
Ⅰ.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要
1.最近の金融市場調節の運営実績
金融市場調節は、前回会合(10 月27 日)で決定された方針1のもとで、金融市場における需要を十分満たす潤沢な資金供給を行い、金融市場の安定確保に万全を期した。こうした中、無担保コールレート( オーバーナイト物) は、0.07% 台前半から0.08% 台前半の間で推移した。
2.金融・為替市場動向
短期金融市場は、日本銀行による潤沢な資金供給のもとで、安定的に推移している。GCレポレートは、総じてみれば0.1%近傍での推移となっているが、0.1% を下回る水準まで低下する局面もみられている。ターム物金利をみると、短国レートは総じて0.1%程度で安定的に推移している。長めのターム物の銀行間取引金利は、横ばい圏内の動きとなっている。
長期金利は、株価が強含む場面では幾分上昇したが、その後は株価の軟化もあって低下し、足もとでは、1.0% を下回る水準で推移している。株価は、欧州ソブリン問題の帰趨を巡って、米欧株価とともに振れの大きい展開となっている。日経平均株価は、一旦9 千円台まで上昇した後、大きく下落し、最近では8 千円台半ばで推移している。為替市場をみると、円の対米ドル相場は、既往最高値となる1ドル75 円台前半まで円高が進行した後、為替介入の実施を受けて一時79 円台まで戻した。その後は、欧州ソブリン問題を巡る懸念が再び強まる中、円高方向に振れており、足もとは77 円台で推移している。
3.海外金融経済情勢
世界経済は、減速しつつも回復を続けている。
米国経済は、回復を続けているが、そのテンポはごく緩やかなものにとどまっている。個人消費は、バランスシート問題が重石となる中、雇用環境の改善鈍化や家計のマインド悪化を受けて、ごく緩1 「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」
やかな改善にとどまっている。住宅投資については、住宅価格が軟調に推移する中、なお低水準で推移している。一方、輸出や設備投資は緩やかに増加している。こうしたもとで、生産は増加基調を維持している。物価面では、財市場や労働市場の緩和的な需給環境が引き続き物価押し下げ圧力として作用しているものの、既往の国際商品市況上昇の影響などは、なお物価上昇率を押し上げる方向に作用している。
欧州経済をみると、ユーロエリア経済は、横ばい圏内の動きとなっているが、全体に弱めの動きが目立っている。輸出が海外経済の減速を受けて伸び悩む中、民間設備投資が減速し、個人消費は概ね横ばいとなっている。欧州ソブリン問題の深刻化から、家計や企業のマインド悪化は、ドイツなど主要国にも波及している。こうしたもとで、生産は減速している。物価面をみると、緩和的な需給環境や賃金の低い伸びが、物価押し下げ圧力として作用しているものの、イタリアの付加価値税引き上げの影響や既往の国際商品市況高の転嫁が続く加工食品などの価格上昇が、物価上昇圧力として作用している。この間、英国経済も、横ばい圏内の動きとなっている。
アジア経済をみると、中国経済は、全体として高成長を続けている。輸出が減速しているほか、物価上昇を受けて個人消費の伸びが高水準ながら幾分鈍化しているものの、固定資産投資が高い伸びを続けている。インド経済も、既往の金融引き締めの影響から、幾分減速しているが、なお高めの成長を続けている。N I E s 、A S EA N 経済は、全体として回復基調を維持している。輸出や生産は、先進国経済の減速により、増勢に一服感がみられるものの、個人消費を中心に内需が底堅く推移している。物価面をみると、これらの国・地域の多くで、労働需給の逼迫を受けた賃金上昇率の高まりなどを背景に、物価上昇圧力の強い状態が続いているが、生鮮食品などの高騰の一服もみられている。
海外の金融資本市場では、ギリシャにおける第2 次金融支援の受け入れの是非に関する国民投票実施の表明や、イタリアの政権交代の動きとそれを受けた財政再建見通しに対する懸念の強まりなどを背景として、再び投資家のリスク回避姿勢が強まっている。そうした中、米欧の株価は、欧州を中心に大きく下落し、欧州各国の国債利回りの対独スプレッドは大幅に拡大している。とりわけ、イタリアの同スプレッドの拡大は、証券などに関する集中清算機関であるL C H クリアネットによるイタリア国債の証拠金比率の引き上げ措置もあって、急激なものとなっている。クレジット市場をみると、欧州では、社債の対国債スプレッドが全般的に拡大傾向を辿っており、米国では、低格付け物を中心に社債の対国債スプレッドが、高水準横ばい圏内で推移している。欧州の金融機関の資金調達環境をみると、カウンターパーティ・リスクへの警戒感が高まる中、ユーロのターム物金利の対O I S スプレッドやスワップスプレッド、ベーシス・スワップは拡大している。新興国の金融資本市場では、欧州情勢を巡って神経質な展開が続いているものの、均してみると、株価や通貨は横ばい圏内で推移している。
4.国内金融経済情勢
(1)実体経済
輸出や生産は、震災後に減少した海外在庫の復元もあって増加を続けているが、海外経済の減速の影響などから、そのペースは緩やかになっている。先行きについては、当面、横ばい圏内の動きになるとみられるが、その後、海外経済の成長率が高まることなどから、緩やかに増加していくと考えられる。
公共投資は、振れを伴いつつも、このところ下げ止まりつつある。
先行きについては、被災した社会資本の復旧などから、徐々に増加していくとみられる。
設備投資は、被災した設備の修復もあって、緩やかに増加している。先行きについては、被災した設備の修復・建替えや耐震・事業継続体制の強化の動きなどもあって、基調的には、増加を続けるとみられる。
雇用・所得環境は、改善の動きがみられるものの、厳しい状態が続いている。
個人消費は、底堅く推移している。先行きは、雇用環境が徐々に改善に向かうもとで、引き続き底堅く推移するとみられる。
住宅投資は、供給制約の解消などから、持ち直し傾向にある。先行きは、被災住宅の再建もあって、振れを伴いつつも徐々に増加していくと予想される。
物価面をみると、国際商品市況は、春頃をピークに下落傾向を辿ったあと、ごく足もとでは横ばい圏内の動きとなっている。国内企業物価を3 か月前比でみると、国際商品市況の下落などから、弱含んでいる。先行きについても、当面、弱含みで推移するとみられる。消費者物価( 除く生鮮食品) の前年比は、概ねゼロ% となっている。先行きは、当面、ゼロ%近傍で推移するとみられる。
(2)金融環境
わが国の金融環境は、緩和の動きが続いている。
コールレートがきわめて低い水準で推移する中、企業の資金調達コストは緩やかに低下している。実体経済活動や物価との関係でみると、低金利の緩和効果はなお減殺されている面がある。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、改善傾向が続いている。C P 市場では、良好な発行環境が続いている。社債市場の発行環境についても、発行体の裾野に拡がりがみられるなど、良好な状態が続いている。資金需要面をみると、運転資金や企業買収関連を中心に、増加の動きがみられている。以上のような環境のもとで、企業の資金調達動向をみると、銀行貸出の前年比は、小幅の増加に転じている。社債、C P とも、残高は前年水準を上回っている。こうした中、企業の資金繰りをみると、総じてみれば、改善した状態にある。この間、マネーストックは、前年比2 % 台後半の伸びとなっている。
Ⅱ.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要
1.経済情勢
国際金融資本市場について、委員は、引き続き、欧州ソブリン問題に対する懸念が強い状況にあるとの認識を共有した。多くの委員は、とりわけ、欧州各国の国債利回りの対独スプレッドの上昇がイタリアなど主要国にも拡がっていることや、欧州金融安定基金債( E F S F 債) の対独国債スプレッドの上昇が続いていることに対し、強い懸念を示した。こうした動きについて、ある委員は、民間部門に対してギリシャ政府向けの債権に関する自発的な債務削減への関与を求めたことが、結果的に金融機関が保有する国債の売却を加速させているのではないかと指摘した。欧州ソブリン問題について、何人かの委員は、共通通貨のもとで賃金と労働生産性のバランスを律するメカニズムの弱い国までもが、資金調達金利の低下を享受できたことで不均衡の拡大につながった可能性は否めないとの見方を示した。そのうえで、委員は、中央銀行による国債の買入れや流動性の供給は重要ではあるが、そうした措置を採っている間に、関係国が財政健全化を着実に進め、同時に産業競争力の強化など中長期的な成長力を高める構造改革に取り組むことが必要であるとの認識を改めて共有した。ある委員は、資金支援がかえって財政健全化や構造改革を遅らせることのないように、適切に条件付けがなされる必要があるとの考えを示した。何人かの委員は、わずか数年前には、ギリシャを含めほとんどのユーロ圏諸国が同じような金利水準で資金を調達することができていたことを考えると、ひとたび信認が低下した場合には市場環境が急速に変わり得るという事実を重く受け止めるべきであるとコメントした。
海外の金融経済情勢について、委員は、先進国を中心に成長ペースが鈍化しているものの、新興国・資源国の高めの成長に支えられ、全体としては緩やかな回復傾向を続けているとの見方を共有した。
米国経済について、委員は、回復を続けているが、そのテンポはごく緩やかなものにとどまっているとの見方で一致した。ある委員は、夏場以降、欧州ソブリン問題の緊張度が増す中で、経済の不確実性が高まっており、マインドの低下を通じて、企業や家計の支出スタンスに影響を及ぼしていると指摘した。これに対し、何人かの委員は、自動車販売が堅調であり、それ以外のいくつかの経済指標も市場予想を上回る結果となったことから、夏頃みられたような景気後退懸念は幾分和らいでいると指摘した。先行きについて、委員は、金融緩和の効果が引き続き景気の回復を後押しするものの、財政・金融政策のさらなる発動余地は限られており、バランスシート調整の圧力が根強く残る中、成長ペースは緩やかなものにとどまる可能性が高いとの見方を共有した。
ユーロエリア経済について、委員は、欧州ソブリン問題に端を発する金融システム不安の高まりを受けて、減速が明確になっているとの認識を共有した。委員は、国債利回りの上昇が周縁国から主要国にも拡がっているもとで、欧州の金融機関が貸出運営スタンスを厳格化するなど資産圧縮の動きを強めており、意図しない金融引き締めの効果がこれまでよりも強く現れつつあるとの見方で一致した。
何人かの委員は、欧州ソブリン問題の影響は、貿易取引や国際金融
資本市場を通じて、欧州域内にとどまらず、グローバルにも波及しつつあると指摘した。先行きについて、委員は、欧州ソブリン問題を巡る金融資本市場の緊張が続く中、財政と金融システム、実体経済の負の相乗作用が働きやすく、景気回復の動きは抑制されたものになることは避けられないとの見方を共有した。また、ある委員は、投資家のリスク回避姿勢の強まりが新興国からの資金流出につながる懸念についても言及した。
新興国・資源国経済について、委員は、金融引き締めの効果に加え、先進国経済の減速に伴う輸出の減少の影響などから、幾分減速しているものの、堅調な内需に支えられて、総じて高めの成長が続いているとの見方で一致した。複数の委員は、国によって状況が異なるものの、これまでの金融引き締めの効果もあって、食料品価格を含めて物価上昇圧力が幾分低下し、金融緩和余地が拡がっていることは好材料であると述べた。先行きについて、委員は、多くの国で、景気は当面幾分減速した状態で推移した後、インフレ率の低下による実質購買力の回復などから、高めの成長を実現していく可能性が高いとみられるが、物価安定と成長を両立することができるかについては、なお不透明感が高いとの認識を共有した。
こうした海外の金融経済情勢を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。
景気の現状について、委員は、持ち直しの動きが続いているものの、海外経済の減速の影響などから、そのペースは緩やかになっているとの見方で一致した。輸出や生産は、震災後に減少した海外在庫の復元もあって増加を続けているが、海外経済の減速の影響により、資本財や情報関連財などの輸出に弱めの動きがみられているほか、一般機械や電子部品・デバイスなどの生産にも影響が出ており、増加ペースが緩やかになっているとの認識を共有した。委員は、公共投資は下げ止まりつつあり、設備投資は緩やかに増加しているとの見方で一致した。個人消費について、委員は、雇用・所得環境が緩やかに改善する中で、底堅く推移しているとの認識を共有した。
景気の先行きについて、委員は、当面、海外経済の減速や円高に加えて、タイの洪水の影響を受けるとみられるとの見方で一致した。
また、その後は、新興国・資源国に牽引されるかたちで海外経済の成長率が再び高まることや、震災復興関連の需要が徐々に顕在化していくことなどから、緩やかな回復経路に復していくとの見方を共有した。タイの洪水の影響について、何人かの委員は、被害状況を含めなお不確実な要素が多いものの、同国からの部品調達の困難化などから、自動車や電気機械の関連企業では生産活動を抑制せざるを得ないため、短期的には、わが国の輸出や生産を目に見えるかたちで押し下げる可能性が高いと述べた。何人かの委員は、設備投資の先行指標である機械受注(民需、除く船舶・電力)の10~12 月期見通しが減少している点や、住宅投資の先行指標である住宅着工件数が各種住宅取得促進策終了前の駆け込み需要の反動もあってやや大きく減少している点について、これが一過性のものであるかどうか慎重に確認していく必要があるとの認識を示した。そのうちの一人の委員は、設備投資の動きに先行する傾向がある株価が、円高圧力の継続などに伴い大きく下落していることもあり、設備投資の回復が想定通り進むかどうか懸念していると述べた。また、別の委員は、個人消費について、天候要因もあって一部の指標でなお弱めの動きがみられている中、株価の下落が消費者マインドの悪化を通じて下押しに働く可能性についても注意が必要であると付け加えた。
景気の先行きを巡るリスクについて、委員は、海外金融経済情勢を巡る不確実性が、わが国経済に与える影響について、引き続き注視していく必要があるとの見方で一致した。とりわけ、欧州ソブリン問題は、欧州経済のみならず国際金融資本市場への影響などを通じて、世界経済の下振れ要因となる可能性があるとの認識を共有した。また、当面の国際金融資本市場の動向について、委員は、問題解決の糸口が得られるまでは、緊張感の高い状況が継続する蓋然性が高いとの見方で一致した。委員は、米国経済について、バランスシート調整の影響などから減速が長引く可能性があり、新興国・資源国について、物価安定と成長を両立することができるかどうかなお不透明感が高いとの認識を共有した。何人かの委員は、こうした情勢がわが国経済の先行きに及ぼす影響について、既往の円高や海外経済の減速の影響から、輸出関連業種を中心に今年度の収益見通しを下方修正する動きがみられており、設備投資や雇用の下振れにつながるリスクがあると述べた。これらの委員は、輸出関連業種では、既に企業マインドが悪化する兆しがみられている点が気になると付け加えた。公共投資について、複数の委員は、被災地における雇用のミスマッチなどを背景に、予算執行が遅れる可能性があるとの認識を示した。こうした議論を踏まえ、複数の委員は、前回会合以降、下振れリスクが幾分高まっている可能性を指摘した。
消費者物価( 除く生鮮食品) の前年比について、委員は、概ねゼロ% となっており、先行きは、当面、ゼロ% 近傍で推移するとの見方で一致した。複数の委員は、東京の10 月の消費者物価(除く生鮮食品) は、たばこ税や傷害保険料のプラス寄与の剥落により、前年比マイナス幅が拡大した点に言及した。国際商品市況の先行きについて、委員は、海外金融経済情勢を巡る不確実性が高いもとで、上下両方向に不確実性が大きいとの見方を共有した。複数の委員は、新興国において賃金上昇率の高まりがみられていることや、新興国経済の需要増を背景に国際商品市況が再び強含んでいることなどが、わが国の物価に及ぼす影響については、引き続き注意してみていく必要があると述べた。
2.金融面の動向
委員は、国際金融資本市場の緊張度は引き続き高いものの、わが
国の金融環境は、緩和の動きが続いているとの見方で一致した。
短期金融市場について、委員は、日本銀行による潤沢な資金供給のもとで、コールレートがきわめて低い水準で推移するなど、引き続き、落ち着いて推移しているとの見方を共有した。企業金融について、委員は、企業の資金調達コストが緩やかに低下していること、企業からみた金融機関の貸出態度が改善傾向を続けていること、CP 市場、社債市場ともに、良好な発行環境が続いていること、などの認識を共有した。企業の資金繰りについて、委員は、各種指標でみた企業の資金繰り判断D I が、中小企業も含めて、東日本大震災前の水準や2000 年以降の平均を上回るところまで概ね改善していることなどから、総じてみれば改善した状態にあるとの認識で一致した。このようにわが国の金融環境が、欧州ソブリン問題が強く意識されるようになった夏場以降も落ち着いた動きをみせている点について、何人かの委員は、米欧の金融環境との違いを指摘した。もっとも、何人かの委員は、株価や不動産投資信託( J - R E I T ) の軟調、為替円高、米ドル資金調達コストの高まりなどを指摘しつつ、国際金融資本市場の不安定な動きがわが国金融市場にも一部波及していることにも言及した。昨年の7 月以来となるドル資金供給オペレーションへの応札がみられたことについて、複数の委員は、実務的な手順の確認などを目的とした応札とみられるが、市場でのドル調達コスト上昇も一因となっている可能性を指摘した。こうしたやり取りを経て、委員は、国際金融資本市場の連関が高いもとで、先行き欧州ソブリン問題の影響が日本の金融市場により強く及んでくる可能性について、引き続き注意する必要があるとの認識を共有した。
夏場以降の為替円高について、委員は、グローバルに市場参加者がリスク回避の姿勢を強める中で、相対的に安全な資産と認識された円が消去法的に買われている側面が強いとの見方を改めて共有した。そうした認識も踏まえつつ、委員は、為替円高の実体経済面への影響について議論を行った。多くの委員は、円高が経済に及ぼす影響については、プラス・マイナス両面があり、その時々の経済情勢によって、あるいは時間の経過によっても異なるが、現在のように、海外経済の先行きを巡る不確実性の高い局面においては、輸出や企業収益の減少、企業マインドの悪化などを通じて、円高がマイナスの影響を及ぼす可能性に十分注意する必要があるとの見方を示した。これに関して一人の委員は、為替円高の進行は、10 月末に実施された為替介入により、一旦歯止めがかかっているが、わが国経済に全体としてマイナスの影響を及ぼし続ける可能性があると指摘した。企業の海外生産シフトについては、何人かの委員は、基本的には海外市場の拡大に対応した企業の成長戦略の一環であり、国内産業の高付加価値化の動きなどと合わせて、経済発展を遂げるうえでは不可欠な産業構造の高度化のプロセスと捉えるべきものであるが、こうした構造調整が円滑に進んでいないことが空洞化懸念の背景になっていると述べた。そのうちの一人の委員は、為替円高は積極的な海外投資の好機としばしば言われるが、先行き円高がさらに進むとの懸念があるとすればそうした投資行動も起きにくいとの見方を示した。別の委員は、2000 年代半ばにかけて為替相場が大きく円安に振れ、いったん生産の国内回帰が起こった結果、その後の円高に対して企業が感じる調整負担が重くなる可能性を指摘した。さらに別の委員は、企業の全面的な海外移転を防ぎ、国内のものづくり体制をしっかりと維持することが重要であると指摘したうえで、急激な円高によって海外生産シフトが一気に加速すると、国内で新たな事業や産業が育つペースが追いつかなくなり、国内雇用への悪影響が残るといったリスクがあることなどには注意が必要であると
述べた。また、一人の委員は、円高の負の側面のみが語られがちな
のは、企業の中長期的な成長期待が低いという、より根本的な問題
の一つの現れなのではないかとの見解を示した。
Ⅲ.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要
次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、委員は、
「無担保コールレート( オーバーナイト物) を、0 ~ 0 .1 % 程度で推移するよう促す」という現在の方針を維持することが適当であるとの見解で一致した。
当面の金融政策運営について、委員は、8月および10 月に増額した基金による金融資産の買入れを着実に進め、その効果の波及を確認していくことが適当であるとの認識を共有した。複数の委員は、前回会合以降みられている一部経済指標などの弱さが一過性のものかどうか慎重に見極めていきたいと述べた。何人かの委員は、国際金融資本市場において、これだけ緊張度が高い状況が続いているにもかかわらず、わが国の金融環境において緩和の動きが続いていることには、累次にわたり実施した資産買入等の基金の増額が一定の効果を発揮しているとの認識を示した。前回会合以降、基金による社債等買入オペレーションにおいて札割れが生じたことについて、何人かの委員は、社債市場が良好な状況にあることが影響しているとの見方を示した。また、別の委員は、量的緩和政策を行っていた時期と比較して、わが国の金融機関の経営状況が総じて安定しており、当時みられたような金融機関の予備的な資金需要の高まりがみられないことも影響していると述べた。さらに、ある委員は、仮に金融機関の資金需要が低いとすれば、今後も札割れが生じ得るため、今後の状況を注視していく必要があると述べた。こうした議論を経て、委員は、今般の札割れについて、日本銀行による強力な金融緩和が浸透してきた証左とみることもできるとの認識を共有した。
Ⅳ.政府からの出席者の発言
財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。
 わが国の経済情勢をみると、持ち直しているものの、そのテンポは緩やかになっている。そうした中、最近の為替市場における投機的な動き、無秩序な動きのため、足もとでは歴史的な円高が急速に進行している。さらに、欧州債務問題に対する懸念が再燃し、それによる海外経済の停滞感の高まり等が景気を下振れさせる重大なリスクとなっており、政府として大変懸念している。また、タイの洪水の影響についても注視していく必要がある。
 政府としては、為替市場の投機的な動き、無秩序な動きへの対応に万全を期し、日本経済への下振れリスクを具現化させないため、先般為替介入を実施した。引き続き市場動向を注視しつつ、適切に対応していく。また、本格的な復興予算である平成23 年度第3次補正予算については、現在国会で審議が行われている。被災地の復興、原発事故の収束、そして円高による空洞化等のリスクへの対応など、日本経済の立て直しを大きく加速するため、一日も早く第3 次補正予算とその関連法案を成立させて頂き、実行に移していくことが重要と考えている。
 政府としては、円高の進行と海外経済の停滞懸念による景気下振れリスクが非常に高いことなどを踏まえ、今後のマクロ経済運営においては、引き続き細心の注意を払いつつ、機を逸することなく適切に対応していくことが重要であり、日本銀行と一体となって取り組んでいきたいと考えている。日本銀行におかれても、現下の厳しい経済状況に対する認識を政府と共有し、海外経済の動向や為替市場を含む金融・資本市場の変動が、わが国経済に与える影響等を踏まえながら、果断な金融政策対応をお願いしたい。
また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。
 11 月14 日に公表した7~9月期の実質成長率は、震災後のサプライチェーンの立て直しが夏にかけて急速に進んだことなどを背景に、年率+6.0%と4四半期振りのプラスとなった。ただし、足もとではわが国の景気は引き続き持ち直しているものの、そのテンポは緩やかになっている。先行きについても、景気の持ち直し傾向が続くことが期待されるが、国際金融情勢の不安定化や円高、海外景気の下振れ、タイの洪水被害等、わが国景気の下振れリスクを十分警戒する必要がある。特に欧州の金融情勢については、政府債務危機がイタリアにも波及するなど、危機が深まっており、投資家のリスク回避姿勢が強まっている。こうした世界経済の重大な下方リスクに対し、政府と日本銀行との間で警戒感、危機感を共有し、一層緊密な連携を図る必要がある。
 政府は、平成 23 年度第3次補正予算を早急に成立させ、震災からの復興に全力を尽くすとともに、先般決定した「円高への総合的対応策」を本格的に実施していくことにより、急速な円高の進行等による景気下振れリスクや産業空洞化リスクに先手を打って対処していく。さらに、わが国の成長力強化に向け、日本再生の基本戦略を年内に取りまとめていく。
 円高とデフレの悪循環という懸念に加え、欧州の金融情勢が緊迫
していることから、日本銀行におかれては政府との一層緊密な情報交換・連携のもと、適切かつ果断な金融政策運営により、経済をしっかりと下支えすることをお願いする。
Ⅴ.採決
以上の議論を踏まえ、委員は、当面の金融市場調節方針について、
「無担保コールレート( オーバーナイト物) を、0 ~ 0 . 1 % 程度
で推移するよう促す」という現在の金融市場調節方針を維持するこ
とが適当である、との考え方を共有した。
議長からは、このような見解を取りまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。
金融市場調節方針に関する議案(議長案)
1.次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。
                 記
無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0~0.1%程度で推移するよう促す。
2.対外公表文は別途決定すること。
採決の結果
賛成:白川委員、山口委員、西村委員、中村委員、亀崎委員、
宮尾委員、森本委員、白井委員、石田委員
反対:なし
Ⅵ.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)の検討対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が検討され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。
Ⅶ.議事要旨の承認
議事要旨(10 月27 日開催分)が全員一致で承認され、11 月21 日に
公表することとされた。
以 上

2011年11月16日
日本銀行
当面の金融政策運営について
1 . 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致(注1))。
無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0~0.1%程度で推移するよう促す。
2.わが国の経済は、持ち直しの動きが続いているものの、海外経済の減速の影響などから、そのペースは緩やかになっている。すなわち、国内需要をみると、設備投資は緩やかに増加しているほか、個人消費についても底堅く推移している。一方、輸出や生産は、震災後に減少した海外在庫の復元もあって増加を続けているが、海外経済の減速の影響などから、そのペースは緩やかになっている。この間、国際金
融資本市場の緊張度は引き続き高いものの、わが国の金融環境は、緩和の動きが続いている。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、概ねゼロ%となっている。
3.先行きのわが国経済は、当面、海外経済の減速や円高に加えて、タイの洪水の影響を受けるとみられる。もっとも、その後は、新興国・資源国に牽引される形で海外経済の成長率が再び高まることや、震災復興関連の需要が徐々に顕在化していくことなどから、緩やかな回復経路に復していくと考えられる。消費者物価の前年比は、当面、ゼロ%近傍で推移するとみられる。
4.景気のリスク要因をみると、欧州ソブリン問題は、欧州経済のみならず国際金融資本市場への影響などを通じて、世界経済の下振れをもたらす可能性がある。米国経済については、バランスシート調整の影響などから、減速が長引く可能性がある。
新興国・資源国では、物価安定と成長を両立することができるかどうか、なお不透明感が高い。海外金融経済情勢を巡る以上の不確実性が、わが国経済に与える影響について、引き続き注視していく必要がある。
(注1)賛成:白川委員、山口委員、西村委員、中村委員、亀崎委員、宮尾委員、森本委員、白井委員、石田委員。
反対:なし。
別 紙
物価面では、国際商品市況の先行きについては、上下双方向に不確実性が大きい。
また、中長期的な予想物価上昇率の低下などにより、物価上昇率が下振れるリスクもある。
5.日本銀行は、資産買入等の基金の規模を累次にわたり大幅に増額し、そのもとで、金融資産の買入れ等を着実に進めている。また、日本銀行は、「中長期的な物価安定の理解」(注2)に基づき、物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで、実質ゼロ金利政策を継続していく方針を明らかにしている。日本銀行としては、こうした包括的な金融緩和政策を通じた強力な金融緩和の推進、さらには、金融市場の安定確保や成長基盤強化の支援を通じて、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰するよう、中央銀行としての貢献を粘り強く続けていく方針である。
以 上
(注2) 「消費者物価指数の前年比で2%以下のプラスの領域にあり、中心は1%程度である。」

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