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米国議員は日米関係を大所高所から柔軟に認識2010年02月01日

活動報告

2010年2月1日~2月6日

米国議員は日米関係を大所高所から柔軟に認識


大統領朝食会でのオバマ大統領


ジム・ウェブ上院東アジア小委員長


左からコンイアー司法委員長、クチニッチ議員、ホンダ議員


国連PKO局ディビット・ハーランド部長

 2月1日から6日にかけてニューヨークとワシントンを訪問しました。本日までに、鳩山総理、岡田外務大臣、北澤防衛大臣、民主党輿石幹事長職務代行などに報告を終え、近日中に小沢幹事長に報告しますので、その概要を報告いたします。

 今回の主目的は、National Prayer Breakfast(NPB,大統領朝食会)への出席です。毎年2月に開催されるこの朝食会にはオバマ大統領夫妻、バイデン副大統領、ヒラリー・クリントン国務長官、マレン統合参謀本部議長、上下両院議員などが出席。海外からはスペインやフィージーの首相、議会関係者、宗教指導者など約140カ国から3000名を越える人が出席しました。

 NPBはアイゼンハワー大統領の時代の1953年、上下両院議員を中心に始められたもので、当時はPresidential Prayer Breakfastと呼ばれました。党派を超えて平和を祈り、党派を超えた個人的な信頼を深める目的で始まり、今では世界各国の、宗教や民族、政治体制を越えた朝食会にと発展しました。私も今回2回目の出席です。

 オバマ大統領は「米国は礼節を取り戻す必要がある。祈りは私たちを高慢から守り、謙遜にしてくれる。成功した時こそ謙遜になり祈ることが必要です。他人にしてもらいたいことを、他人にしてあげることです」と訴えました。そして「政策を問題にしてもいいが、動機(motivation)を問題にしないでほしい」と訴えました。また、You see face of God in enemies(敵の中にこそ神を見ることができる)というリンカーン大統領の言葉を引用し、9.11事件のテロの非人道性を否定する一方で、「彼らがなぜ攻撃したのかを考えなければならない」とも述べました。

 基調講演はヒラリー・クリントン国務長官が行いました。彼女はまず、「ハイチ地震では多くのグローバル・リーダーが試された。私たちリーダーには問題解決の責任がある」と述べました。そして、94年のNPBに出席したマザー・テレサが、当時のクリントン大統領に対して「世界平和を祈るために私たちは集っているのに、中絶を認めるあなた(大統領)には平和を語る資格はない」と大統領を非難した。そして、マザー・テレサはヒラリー夫人に呼びかけ、ワシントンに「子供の家」を建設することを提案し、ヒラリーはこれを受け入れ、翌年に孤児院「マザーテレサ・ホーム」がワシントンにオープンした。この間マザーはベトナム、インドなど世界中から電話で催促してきた。マザー・テレサは偉大なロビーストである!とヒラリーは賞賛しました。

 ニューヨークでは国連のPKO担当者とハイチへの自衛隊派遣のあり方について、情報交換ができました。ワシントンでは上下両院の有力議員に多く会えました。普天間問題などの日米関係が主テーマでしたが、(1)ペンタゴン関係者などと異なり、「まず辺野古案ありき」ではなく、柔軟に、大きな視点から物事をとらえている。(2)名護市長選も含む日本の政治状況を理解しようと努力している。(3)昨年以来の外圧的な手法でなく、日本側との対話と日米同盟の重要さを認識している。が特筆すべき点です。

 以下、その概要を報告いたします。

日 程  (外務省によるアポ(外)以外は、自分でアポを取得した)
2/1 月曜日(ニューヨーク)
13:00 中満泉国連PKO局政策・訓練部長
14:30 川端清隆国連政務官
19:00 世界宗教者平和会議(WCRP)ベンドレー事務総長
2/2 火曜日(ニューヨーク→ワシントン)
9:00 ディビット・ハーランド国連PKO局ヨーロッパ・ラテンアメリカ部長
10:00 オビアカー国連PKO局軍事担当部長
14:00 極東アジア四極会談(世界平和研究所、US Institute of Peaceなどの共催)で講演
デビット・ソロモン元中国駐在大使、谷内元外務事務次官他出席
18:30 ジョン・エンサイン上院議員、ジム・デミント上院議員、トム・コバーン上院議員
バート・ストゥーパック下院議員、ザック・ワンプ下院議員
2/3 水曜日
12:30 National Prayer Breakfast昼食会  藤崎駐米大使出席
14:00 リチャード・アーミテージ元米国務副長官
15:00 ジム・ウェブ上院東アジア小委員会委員長(外)
17:00 ケント・カルダー、ジョン・ホプキンス大学日本研究所所長
18:30 コソボ国会議員、ウクライナ国会議員など
2/4 木曜日
7:00 National Prayer Breakfast(大統領朝食会) オバマ大統領、クリントン国務長官他出席
11:00 シーラ・スミス外交問題評議会上級研究員
12:00 デビット・ノーブル国務省平和活動、制裁、カウンター・テロ部長(外)
13:45 リチャード・ホルブルック国務省アフガニスタン・パキスタン特別代表
ポール・ジョーンズ国務省アフガニスタン・パキスタン特別代表代理
15:00 デニス・クシニッチ下院議員、ハワード・バーマン外交委員長、ジョン・コニィアース司法委員長、マジー・ヒロノ下院議員、マイケル・ホンダ下院議員
16:30 スケルトン下院軍事委員長・ボルターロ下院議員(グアム選出)各補佐官(外)
18:30 藤崎駐米大使(外)
2/5 金曜日
8:00 ゴードン・フレイク、マンスフィールド太平洋問題研究所所長
10:00 マイケル・シーファー国防次官補代理(外)
11.00 ケリー上院外交委員長フランク・ジャヌジ補佐官
12:30 マイク・モチズキ、ジョージ・ワシントン大学准教授他の日米専門家に講演
14:00 ジョン・ブロウズ米国際関係開発庁(USAID)民主主義・紛争・人道支援局長官補代理、キャロル・チャン海外災害援助部長代行(外)
16:00 ダニエル・イノウエ上院歳出委員長(外)
テーマ別論点
1 普天間・米軍再編問題
(1)ジム・ウェッブ上院外交委東アジア・太平洋小委員会委員長

 自分は日本における政治的現実(political reality)を理解しており、そしてこのことにより日本政府が意思決定に若干の時間を要していることも理解している。かかる政治的現実を米国政府は受け入れなければならない。

 自分は日本、特に沖縄を何回も訪問したことがある。40年前には海兵隊の歩兵士官として沖縄を訪問した。ジャーナリストとしても沖縄を訪問した。1980年代に日本の刑務所問題を取材した際に沖縄の刑務所も訪問した。1987年に海軍長官になった際には沖縄の米軍基地問題を扱った。自分は運命的に、日本や沖縄と様々な関係を持ってきた。再来週に日本、沖縄、そしてグアムを訪問するが、その際には夫々の訪問先で政治リーダーシップの方々と意見交換し、軍事関係者と話し、問題のトレンドと全体像を掴みたいと思っている。
今は先入観を持つことなく、東京や沖縄やグアムを訪問して、関係者から色々と話を聞いて、自分としての考え方を整理したい。日米同盟はあまりにも重要なものであり、この地域における米軍の兵力プロジェクションの態様を拙速に変更することによって、周辺の国々に間違ったメッセージを送ることになってはならない。

(藤田議員)

 この問題について別の切り口として申し上げたいのは、(1)普天間基地周辺の危険除去を行うため、訓練行動を他の基地に分散する、(2)長期的な観点から見た沖縄の自立発展の方策を考える。これらを普天間の移転先探しとは別に先行する。

(ウェッブ議員)

 何れも非常に価値のある見方だ。前回普天間基地を訪問したのは確か2002年だったと思うが、周辺人口は既に密集していた。

(2)ダニエル・イノウエ上院議員

 普天間基地問題は確かに問題の一つであるが、大きな問題ではない。日米同盟は、アジア太平洋地域の平和と安定にとって極めて重要である。米国は、民主党を中心とした新政権に対して忍耐強く(patient)あるべきで、また柔軟な(flexible)対応をすべきである。

 クリントン国務長官が就任後最初の外遊先として日本を訪問し、オバマ大統領が就任後初めてホワイトハウスに招いた賓客が麻生前首相であったことは、日本は米国の重要な友人であると同時に重要なパートナーであることを示す国際社会に向けたよいメッセージとなった。

(3)マイケル・シファー国防次官補代理

(イ)米国政府は、既に合意している米軍再編ロードマップの実施を非常に重視しているが、日本の国内政治事情については承知しており、忍耐強く連立与党による検討プロセスを待つ用意がある。

(ロ)ただし、この問題には長い歴史があり、これまで、すべての可能なオプションについて検討してきた。その中で、辺野古への移設案が、両国にとってベストであるとの結論に至った経緯がある。

(ハ)米国政府として、沖縄における政治のダイナミクス、そして日本の政治事情については十分に承知している。ただし、仮に軍のオペレーション上の要請を満たし、安全面、環境面等において問題がなく、かつ、住民が受け入れてくれるというような画期的な素晴らしい案でもあるならば、米政府としても喜んで検討するが、そのようなことでもない限り、辺野古が日米双方にとってベストであるとの考えに変更はない。念のため申し上げるが、現在、連立与党が検討しているいくつかの案については、既に日米で検討を終えたものである。

 先般、2011年予算教書が議会に送られたところである。仮に、日本側がロードマップから離脱すれば、議会は、ロードマップ全体が成立しないと見て、予算をつけないということになるのではないか。その意味でも、日本全体にとっても、沖縄にとっても、ロードマップ全体が実現するようにするのが利益であると思う。

(4)アーミテージ元国務副長官

 普天間の決着が長引けば、アメリカは移転計画から離脱する可能性もある。アメリカは日本の決断を待たなければならない。妥当な決着には多くの努力が必要だ。現行案の変更がある場合は、アメリカには柔軟性と理解と、礼節さが必要となる。昨年からペンタゴンを中心に「外圧」で押せば日本が同意すると強く出てきたが、今では、そういうやり方ではうまくいかないと思っている。

 最近「普天間でよい決着をもたらすために、アメリカはトヨタを追いまわしているのか?」という質問をした人がいたので、「馬鹿な、そんなことは全くあり得ない!」と答えておいた。

 アメリカは、政治家と建設会社との関係についての噂に驚愕した。小川和久氏の提唱する危険除去が重要で、地域経済の振興に役立つことも重要だ。80年代に国防次官補の時に、この問題を認識したが、他の人を動かすことができなかった。もっとエネルギーと勇気があればよかったのだが。

(5)シーラ・スミス外交問題評議会上級研究員

 同盟を成功させるのは日米双方の現政権であり、双方ともが柔軟になるべきだ。コミュニケーションが重要で、現実的にはペンタゴンに理解をさせなければならない。

 海兵隊との直接対話も重要だ。彼らもやり取りに巻き込むべきだ。アメリカ側の政治も理解されなければならない。

 鳩山政権は現実的で、真剣なオプションを提示すべきだ。伝統的な「外圧」は機能しないことを、アメリカも理解し始めている。アメリカが望むというだけで日本を動かすことはできない。

 しかし、アメリカに理解させるには、民主党独自のネットワークをワシントンに築くべきだ。できるだけ多くのコンタクトを作り、相互理解を醸成すべきだ。

(6)ケント・カルダー教授

 日本における米軍のプレゼンスは縮小すべきだ。普天間問題をプラスにすることが重要だ。日本のメディアが、普天間問題に関する民主党政権の対応について余りにもネガティブなことに心配している。

 他の研究者と共に、普天間合意の歴史の研究を進めているが、当初の普天間合意が当初の目的を超えて拡大してしまった。ヘリの危険除去が当初の目的で、これだけをシュワブに移し、湾岸まではみ出す必要はなかった。ゼネコンなどの利益などのためではなく、真のフィージビリティーが必要だ。これまで対象とされ、採用されなかった案全ての詳細な検証と報告が必要だ。

(7)フランク・ジャヌージ氏(ケリー上院国際関係委員長専門スタッフ、バイデン副大統領前専門スタッフ)

 ケリー上院議員は最近読売新聞に以下のような論文を寄稿した。

 「日本が世界の問題を解決するキープレーヤーに留まることをアメリカと世界が必要としている。日本の過去における貢献は、しばしば当然のこととされるか、又は、経済停滞、高齢化、国債の増加などの問題によって蔭に隠れがちである。しかしそれにもかかわらず、日本は私たちの地球を緑豊かにする大きな力であり、アフガニスタンとパキスタンの安定と再建への最大の財政支援国であり、国際機関と発展途上国への寛大な援助国であり、そして核拡散防止における尊敬される指導国である。」

(普天間問題に関して)

 ワシントンは日本政府が提示する、九州か本州の代替地案にオープンである。しかし、どちらかの島に基地を設置することは疑問である。正直に言うと最善の解決案は2006年の、辺野古案に戻ることである。

 同盟は忍耐力を発揮する。アメリカは、日本が辺野古案に組しないという理由で罰することはない。アメリカは失望し、同盟の期待は低減する。しかし、アメリカは親密な同盟国であるイギリスとのスエズ運河を巡る対立などにも耐え、長い同盟にダメージを与たことは無い。

(8)ボルダーロ下院代議員事務所のウィット首席補佐官、ヘルマン外交・安全保障担当補佐官、及び、下院軍事委員会のセネキー上級補佐官

(藤田議員)

 在沖海兵隊のグアム移転に関する協定は、米議会の承認を経ていない行政協定だという理解でよいか。それは、政治的重要性が条約と異なるということか。

(ヘルマン補佐官)

 そうではなくあくまでも制度上の違いである。同協定のような「国際協定」であれ、条約であれ、国家間を拘束する国際約束であるという意味で変わりはない。国際協定は行政府から議会への通知で足り、条約については議会の承認がいるという国内手続きが異なるだけである。

(セネキー上席補佐官)

 憲法上議会は予算作成権を独占しており、当該国際約束が議会の将来の予算作成の権限を制約すると見なされる場合は、議会の承認が必要となる。

(藤田議員)

 昨年末の段階において、米側から日本に対する説明において、早急にロードマップ履行を政治決断しないと予算が付かないとのプレッシャーを米議会から受けているとの説明があったが、事実か。

(セネキー上席補佐官)

 昨年末の段階で、下院軍事委員会や上院軍事委員会等において、予算作成との関連で本件に対する懸念が高まっていたことは事実である。2010年度予算において在沖海兵隊のグアム移設に必要として計上されている経費を削除すればそのこと事態が日米同盟に悪影響を与えるだろう、という判断がなされ、結局予算はそのまま採択された経緯がある。

 これから2011年度予算案が議論されるが、同様の懸念が下院内において既に生じている。上院でも同様な懸念が持たれていると聞いている。今年は昨年にもまして、予算をそのまま残していいのか、という議会内の議論が大きくなろう。5月には下院で関連予算のマークアップ(委員会採決)が行われる予定であり、それまでに普天間の問題について結論が出ていなければ、グアム関連予算へ深刻な悪影響がでる可能性が高い。

2 ハイチ支援、外交政策、POW問題など
(1)アーミテージ元国務副長官

 ハイチへの自衛隊のPKO派遣を歓迎する。自衛隊のC130輸送機がアメリカ人36人を救出したことも、今朝の講演で紹介した。知っている人はほとんどいないので。同盟国との関係が難しい今、人道援助は極めて重要で「よくやった!」と言える。この派遣は、自分も創設に関わったACSAを活用できることができた。これは二国間だけでなく、PKOや人道救援援助にも使える。

(2) ジム・ウェッブ上院外交委東アジア・太平洋小委員会委員長

1 ハイチ支援

 日本の対ハイチ支援策を高く評価する。PKO参加は更に良いニュースだ。日本は災害支援で従来より国際的に高い評価を得ている。日米間でも協力していきたい。

(3)ケント・カルダー教授

(藤田の日本のハイチ支援の報告に対して)ハイチでのPKO支援は、日米双方にとって意味ある“win-win” 支援であり、アメリカと国連の双方に対する支援という意味で、意義がある。アメリカは新しい日本との関係のあり方を模索しているところでもあるので。普天間基地に国連旗がなびいているのも象徴的なことかもしれない!

 アメリカの元日本軍捕虜の支援活動に感謝する。本年、初めて彼らが日本政府の招きで訪日できることは素晴らしい。

(4)マイケル・シファー国防次官補代理

1.ハイチ

 日本政府がハイチへの支援を増大させていることに感謝したい、米国政府は、日本のハイチにおけるPKO活動を支援する、いつでもご相談いただきたい。

(藤田議員)

 ハイチにおいて、日本の自衛隊関係者がハイチにおけるPKOの調整本部に加わることが重要と考えており、これが、今後の他の地域における日本のPKO活動にも役立つと考える。

(5)イノウエ上院議員

(藤田議員)

 世界各国でNGOを経験した後に議員となった。1月、民主党調査団の団長としてハイチへの現地視察を行った。また、長年米軍POWの問題に取り組んでおり、初めて米軍の元POWの方々を日本政府が招聘する計画を進めているほか、本年4月以降には同招聘計画が実現される見込みであるが、予算が限られているため、一度に招聘できる人数が限られている。

(イノウエ議員)

 POWの方々も年々歳をとっていくので、出来る限り早く招聘計画を実現して欲しい。

(6)フランク・ジャヌージ(ケリー上院国際関係委員長専門スタッフ、バイデン副大統領前専門スタッフ

 アメリカ人捕虜に対する公正な扱いを求める藤田氏の努力を評価する。ケリー上院議員は、日本が、率直で正直な過去の評価に乗り出したということに希望を見いだしたと言った。それらの努力は、日本を、アジアにおけるアメリカの強く、価値のある同盟とするだろう。

 ケリー上院議員以上に、私が以前使えたバイデン副大統領はアメリカ人捕虜に対する公正な扱いを心配している。バイデン副大統領の家族の一員がかつて九州で捕虜になり、彼の心に長く引きずっている問題である。

3 自衛隊PKO派遣について国連との意見交換
(1)ハーランド(David Harland)PKO局欧州・ラテンアメリカ部長

1.(藤田議員)

(1)ハイチ大地震発生後、1月20日から21日にかけてハイチを訪れ、ミュレ事務総長特別代表代行にもお会いしてお話しをお伺いすることができた。これまでにインドネシアの津波被害、パキスタン地震の際などにも災害発生直後に現地を訪れたが、今回のハイチ大地震の特徴は首都直撃という点であり、これが甚大な被害につながっていると考えている。

(2)日本はMINUSTAHへの自衛隊部隊の派遣を先般決定し、国連からもこれを受け入れる旨連絡があったと承知している。派遣に際しての御助言があればお伺いしたい。

2.(ハーランド(David Harland)PKO局欧州・ラテンアメリカ部長)

(1)派遣される自衛隊部隊の指揮官が自分の裁量で使用することができる現金をある程度持参された方が良い。例えば、道路の補修を行うに当たっては、砂、土、セメントなどが必要になるが、ミッションの限られた予算や国連の厳格な調達手続きのため必要な量のセメント等がタイムリーに確保できるとは限らない。

(2)また、住民感情を和らげるため、工事に携わる地域住民の雇用、地域住民向けの小規模プロジェクトの実施、各種物資の現地調達を行うことが効果的であり、かかる観点からも現金が必要になるケースが多々ある。

(3)(藤田議員:ハイチの道路を補修するとして、どの地域のニーズが高いのか?)

 ポルトープランスの東に位置するドミニカ国境付近からニッペス(NIPPES)県に入る近辺であろう。今回の地震で港湾施設は相当のダメージを受けており、未だ十分にオペレーショナルな状態ではないことから、陸路での人道支援物資の輸送が円滑になされるよう道路補修が早期に実施される必要がある。なお、ポルトープランス近郊の2港、カルフール(Carrefour)の1港は被害が大きいが、セインマック(Saint-Marc)及びカナダが修理に当たっている南部のジャクメル(Jacmel)の港は被害の程度はそれほどでもなく、近い将来、機能が回復すると思われる。

(4)(藤田議員:ハイチの治安状況及び倒壊した刑務所からの囚人脱走が治安に与える影響について?)
 現在のハイチにおける脅威レベルは「低位」である。2004~06年にかけて、ハイチでギャングが跋扈していた時代は「中位」又は「高位」の脅威レベルにあったが、ブラジル部隊の活躍により、700人にも及ぶギャング構成員が殺害又は拘束されるなどした結果、既にギャングは駆逐された状況にある。確かに、今回の大地震で刑務所が倒壊して4,000人に及ぶ囚人が逃走したが、これは地元住民に対しては「中位」の脅威であるかもしれないが、平和維持部隊への脅威ではない。逃げた囚人が再組織化を試みているとの情報があるが、再組織化されたとしても、ブラジルの部隊が中心となって前回と同様の作戦で壊滅させることが可能である。当初、食料配布の際に空腹かつ失意に満ちた人々が群がって混乱するという状況も見受けられたが、食料の配布も進み、人々の生活も徐々にではあるが、通常に戻りつつある。

(6)(藤田議員:米軍のハイチにおけるプレゼンスはいつまで続くと考えているか?)

 米軍の役割は3つあり、①被災地へのアクセス確保、②緊急人道支援物資を配布するための援助、③治安確保である。このうち、被災地へのアクセス確保については、空港や港の修復が終わり次第、米軍のプレゼンスは必要でなくなる。なお、完全修復まで、空港は更に数週間、港は更に数ヶ月を要するであろう。緊急人道支援物資を配布するための援助については、MINUSTAHやHNP(国家警察)が機能し始めていることから、徐々に米軍のプレゼンスは低下する。また、治安確保に関しては、現在、13,000人の米軍がハイチに派遣されているが、月に約10億ドルものコストを要すること及びMINUSTAHのプレゼンスが増していることから、既に段階的な撤退を始めていると聞いている。最終的には、90日から100日程度で治安確保に当たっている米軍はハイチから撤退するのではないかと思う。

(2)オビアコール国連PKO局軍事顧問(国連事務次長補、ナイジェリア出身、中将)

1.(オビアコール国連PKO局軍事顧問)

(1)日本のハイチ安定化ミッション(MINUSTAH)への派遣を歓迎したい。これまでPKOに参加した自衛隊要員が示しているプロフェッショナリズムは国連内で高く評価されており、今回もその能力を最大限に発揮して被災した住民を支援していただきたい。

(2)これまでMINUSTAHは、ハイチの国家再建、特に「法の支配」部門の再建を重視してハイチ政府を支援してきたが、今回の地震によって、被災した住民に対する支援が最優先の活動内容となっている。特に、日本は地震で被災した地域で復旧活動を行った経験があるので、その活動の進め方は他の派遣国にとっても参考になると思われる。

2.(藤田議員)

(1)日本は、国際貢献活動を重視しており、国連PKOにも積極的に参加したいと考えている。まずはハイチでの活動をしっかり行って成果を挙げ、更に次の派遣につなげていく心積もりで臨みたい。

(2)ご指摘のとおり、被災した住民を助けるためには速やかに現地に到着して活動を開始することが求められている。このため、大型輸送機を使って装備品を輸送するなどのアレンジメントを行っている。また、部隊が速やかに活動を開始するためには基盤の設定が重要であり、その点を踏まえた宿営地の選定が必要であると考えている。

(3)施設部隊が復旧・復興活動を効果的に行うためには、事業経費の確保にも留意が必要と思われるが、かかる観点から、国連の経費償還システムは整備されているのだろうか(先方より、国連の償還システム(COEシステム)は、派遣部隊の装備品に対して規定額を支払うものであり、施設部隊が行う事業経費に充当するものではない、一方、PKOミッションは、クイック・インパクト・プロジェクト(QIP)と言われる住民のちょっとしたニーズに応えるための予算をもっており、これを活用して事業を行うことができる、しかしながら十分な予算が確保されているとは言いがたいのが実情であると回答)。

(4)PKO派遣部隊が効果的な活動を行うためには国連システムを現場ニーズに合わせて適切に適用することが必要であり、施設部隊の活動について調整を行う自衛隊司令部要員の派遣も重要である。また、司令部で企画立案や諸調整を行う経験とは、日本の今後のPKO参加にとっても貴重な経験となる。

4 緊急援助レスキューチームについてUSAIDからのヒアリング
1.米国際開発庁(USAID)ジョン・ブラウス(Jon C. Brause)民主主義・紛争・人道支援局長官補代理

(1)ハイチ地震は、その規模に加え、現地の空港及び港湾等ロジ的機能が被害を受け、政治・行政等リーダーシップ、さらには国連やNGOさえ機能しなくなったという意味において、パキスタン大地震やスマトラ沖大地震、インド洋津波等近年の自然災害の中でも最も悲劇的な災害であった。

(2)米国は、すべての大使館に災害等の緊急連絡担当官を配置しており、災害が発生した場合、24時間体制で対応しUSAIDに連絡が入る。連絡を受けて緊急援助の実施が決定された場合、各種専門家を含めた12-15名からなるチームが2日以内に被災国に到着できる。チームはリーダー、専門家、調整員からなるが、被災国政府及び国連との調整は難しいものである。

(3)(藤田議員:ハイチ地震では日本大使館及び大使公邸が共に被災したため、連絡手段が途絶えた。また、救助チーム(レスキュー隊)は派遣しなかった。)日本の救助チームは世界でも最高のものである(best of the world)。

 米国の支援決定に至る意思決定プロセスには組織の最高責任者は入っておらず、権限移譲が進んでいる。今回のハイチ地震への支援についても自分の承認は不要で、(同席の)キャロル・チャン海外災害援助部長代行(Carol Chan, Acting Director, Office of Foreign Disaster Assistance)に権限があり、彼女が電話一本で決定した。職員のブラックベリーに配信される米地質調査所(USGS)から災害の規模等基礎的情報(ハイチの地震現場の衛星映像等)をも踏まえ、一時間半以内に派遣の要否を決定する。また、USAIDの予算は柔軟性があり、緊急の際の拠出手続きが簡素化されている。責任者の裁量で柔軟に使える特別予算があり、ロル・チャン部長代行は、チャーター機の発注や機材の調達なども独自に決済できる。加えて、USAID海外駐在事務所には各国事務所の他、バンコク、コスタ・リカ、セネガル、ナイロビ等に地域事務所を配置しており当該地域の緊急援助に関する意思決定は地域事務所レベルで行うことができる。被災地のニーズ査定等のスキルをもった専門家の存在も欠かせないものであり、彼らが早く現場に入ることで、精度の高い一次情報が得られる。こうした専門家の養成は重要で、危機に備える投資として、予算を投入すべきだ。また、現地派遣のチームリーダーは、こうした専門家を充てるべきである。

 因みに、ハイチでは、これまでに各国のレスキューチームが、132名を救出したが、そのうちアメリカチームが47名を救出した。

(4)関係各省庁との連携も重要であり、USAID内のオペレーション室には、国務省、国防総省、沿岸警備隊、緊急管理庁(FEMA)等に加え、国連人道問題調査事務所(UNOCHA)WFP(世界食糧計画)、ホワイトハウスなども入っている。

2.ジェームス・フレミング(James Fleming)オペレーション室レスポンス・ディレクター

(1)オペレーション室は、ディレクター室を中央に、USAID内の関連部署から構成されるオペレーション室と、関係省庁から構成されるオペレーション室の二室がレイアウトされている。

(2)都市捜索・救命活動については年に一回国際会議があり、また3ヶ月毎に地域会議が行われている。そのため活動が標準化され、ハイチにおいても各国が上手く連携を図りながら活動することが可能であった。


大統領朝食会でのクリントン国務長官

国連PKO局オビアンカー部長

極東アジア四極会議で講演

ジム・デミント上院議員

ケント・カルダー教授

ジョン・エンサイン上院議員

ペンタゴンで

マイク・モチヅキ教授(右)

USAIDのブロウズ氏(左)チャン氏(右)

USAIDオペレーションルーム

USAIDオペレーションルーム(関係団体)

ダニエル・イノウエ夫妻と日系人協会の皆さん