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「The Other Russia (もう一つのロシア)」会議報告2006年07月20日

活動報告

2006年7月20日

「The Other Russia (もう一つのロシア)」会議報告

前衆議院議員
藤田幸久

一. G8サミット直前の「プーチン強権政治反対会議」
 ロシアでは、近年言論(メディア)統制と非政府組織(NGO)に対する弾圧が強化されている。
 そこで7月15日~17日にサンクトペテルスブルグで開催されたG8サミットを前に、プーチン政権の強権的な政治に反対するロシアの様々なNGOやメディア、政治家、知識人などの主催による国際会議「The Other Russia (もう一つのロシア)」が、モスクワのホテルで開催された。
 G8の一員として「先進民主主義国」のイメージを振りまくロシアとは異なる「もう一つのロシア」を内外に示したいとの目的である。サミット直前に、現政権を批判するこれだけの規模の国際会議が首都モスクワで開催された事の意義は大きい。
二、会議出席予定の国会議員が襲われ、出席者がホテルから拉致される
 今回の会議は、「モスクワ・ヘルシンキ・グループ」などの人権団体、「ロシア統一市民フロント」などの民主主義団体、「トランスペアレンシー・ロシア」などの汚職監視団体、INDEM財団などのシンクタンクなど、多くのNGOで構成される「全ロシア市民会議」の主催で行なわれた。
 会議場のルネッサンス・ホテル周辺は、100人ほどの警官が取り囲む中、政権側組織のTシャツ姿の若者達がホテル入口の両側に並んで、参加者を威嚇した。
 事前には、地方からの参加者が空港で逮捕されたり、列車から降ろされたりといった妨害が相次いだ。更に、会議の初日、4人の参加者が会議場の入り口で私服の公安関係者に拉致され、地元の警察署に拘留された。これを撮影したドイツ人カメラマンも取り押さえられた。
 また、2日目に会議場に向かっていたグラジエフ国会議員が何者かに殴打され出席を阻まれた。こうした妨害にも拘らず、ロシア各地から数十の市民団体を中心に400人ほどが出席した。ロシアの市民社会の足腰の強さと意識の高さが示された。
三 左・右両政党からの出席と、難しい統一
 政治関係では、リベラル派の「国民民主連合」カシヤノフ元首相、ハカマダ元大統領候補、元チェス世界チャンピオンのカスパロフ氏、「ボルシェビキ党」リモノフ党首、スターリンを信奉する「働くロシア党」のアンピロフ党首、イラリオノフ前大統領経済顧問など多彩な顔ぶれが見られた。しかし、極右のボルシェビキ党の参加を嫌った、ヤブロコ党や右派連合などの中道政党が出席しなかったことが惜しまれる。2008年の大統領選挙を控え、統一候補の必要性が叫ばれながら、野党間の連携の難しさを浮き彫りにした。

 会議は、以下のような内容で、合計40人近くが演説した。

第1セッション「官僚のロシアから市民のロシアに」

 「市民の権利」、「声なき社会」、「NGOとNGO新法」、
 「政治犯」、「恣意的な法執行」、「移民」

第2セッション「無法状態のロシアから法が支配するロシアに」

 「連邦制」、「裁判制度」、「法律執行組織」、「軍隊」、
 「チェチェン:コーカサスの戦争」、「外国人嫌い」

第3セッション「貧しいロシアから繁栄するロシアに」

 「経済」、「社会問題」、「汚職」、「エコロジー」

第4セッション「管理された民主主義から自由なロシアに」

 「国際政治」、「選挙と政党」、「権力の移譲」、「外交政策」、
 「CISとの連携と崩壊」、「石油とガスによる恐喝」
  
四 G7諸国から政府高官も出席
    外国からの出席を嫌うプーチン政権は、G7諸国のモスクワ駐在大使に対して、「出席すれば、ロシアに対して非友好的とみなす」と圧力をかけた。しかし、アメリカの国務次官補が二人、イギリス、カナダの大使、イタリア、ドイツなどの外交官も出席した。英国のブレントン駐ロ大使は流暢なロシア語で、「機能的な社会においては、競争経済と同様に批判も重要だ。英国はロシアの市民社会とNGOの発展に今後とも関っていきたい」とスピーチした。
 また、イギリスのマクミラン・スコット欧州議会議員、ドイツのショッケンホフ国会議員、会議の助成を行った米国議会関係団体の「米国民主主義基金」(NED)カール・ガーシュマン理事長なども出席した。
 日本の秋元公使と倉井公使も少しずつ出席した。G7の大使館同士の連携もあったが、赴任国に弱腰になることもあった外務省からの出席を評価したい。
五 プレス自由ランキング140位、6年間でジャーナリスト128人が死亡
 プーチン大統領は、「国家によるメディア支配」を一貫して進めてきた。政府に批判的な新聞の廃刊、編集スタッフの解雇、政府系企業による三大テレビ局の支配などを進め、ほぼ全てのメディアを掌握したとされるが、更に今年「メディア法」を修正し、報道管制を強化しようとしている。
 「国境なき記者団」の「プレスの自由ランキング」(2004年)で、ロシアは167カ国中140位にランクされている。また、「ロシア情報公開擁護財団」によると、1999年からこれまでに128人のジャーナリストが何らかの事件に巻き込まれて死亡したり、行方不明になっているという。
 ある日本人ジャーナリストも、最近ロシア外務省から呼ばれ、「記事の内容に政府批判がある」と訂正を求められた。事実を伝えただけだと訂正を断ると、「法に基いて、ビザを剥奪することもできるんだ!」と脅されたという。
 「もう一つのロシア」会議に、主要テレビ各社は全く姿を見せなかったが、3つの民法テレビ局が会議の模様を放映した他、新聞数社も小さなスペースながら記事を掲載した。ロシアのジャーナリストの心意気と良心に敬意を表したい。CNNやニューヨーク・タイムス、日本のNHKや新聞数紙なども報道してくれたことも、会議後のロシア人参加者の身の安全にとって重要である。

 一方、今年初めにNGOの規制強化法が成立した。人権、環境、福祉など多様な分野の45万団体といわれるNGOが、税務当局と連邦登録局の両方に対する毎年の会計報告が義務つけられている。「国益に反する」と認定すればNGOを処分できる。「旧ソ連時代への先祖帰り」と言われるゆえんである。
六 今後のロシア民主主義と市民社会への支援
 サンクトペテルスブルグでプーチン大統領と会談する直前に、ブッシュ大統領はロシアのNGOの代表たちと会談し、民主主義支援を表明した。ドイツやフランスの首脳も「ロシアの民主主義」に対する懸念を表明してきた。
 しかし、今回のサミットは、中東、イラン、北朝鮮ときな臭い難問が相次いだため、議長国ロシアを尊重せざるを得ない状況に追い込まれた。ブッシュ大統領は結局「ロシア型の民主主義が存在する」と認めざるを得なかった。
 これまでもロシアは、ソ連時代も含め、「管理民主主義」、「主権民主主義」、「人民民主義」などと巧妙に使い分けてきた。
 今後は、G7の政府というよりも、価値を共有する外国の市民社会が弾圧の中で戦うロシアの市民社会を粘り強く支援していくことが最も重要ではないか。
七 「もう一つの日本」・・・民主主義、人権、NGO発展途上国
 こうした視点から、私は、「もう一つの日本」というテーマで演説した。NGOと議員の両方の経験者として日本唯一の正式出席者である私は、西側諸国と異なり、「日本は、人権、報道の自由、汚職監視、NGO活動などで、ロシアに対して説教できるような状況にはない」という以下のような現状を先ず紹介した。
  1. 日本政府は、権力にある政権なら、虐殺、汚職、人権侵害などには目をつぶって、ポル・ポト首相(カンボジア)、スハルト大統領(インドネシア)、マルコス大統領(フィリピン)などを突出して支援してきた。一方で、ノーベル平和賞受賞者のネルソン・マンデラ大統領(南アフリカ)、アンサン・スーチー女史(ビルマ)、ダライ・ラマ14世(チベット)、ラモス・ホルタ首相(東チモール)などが野にあった時期には、冷たい扱いをしてきた。
  2. 国内のハンセン病、C型肝炎、水俣病、HIV患者、シベリア抑留者などの支援に対しても極めて冷たい扱いをしてきた。
  3. マスコミも、新聞広告やテレビ・コマーシャルを支配する広告代理会社が、広告収入に頼らざるを得ないマスコミに対して強い影響力を持ち、公平性を欠いている。また記者クラブ制度が排外的で、情報アクセスを妨げている。
  4. ポスト小泉と取り沙汰される4人の候補者の1人が元総理の息子、2人が元総理の孫というのも、市民が権威に弱いという体質を示している。
 その上で、
 「世界中で半世紀近くも政権交代がなく、一党支配が続く国は、日本、中国、北朝鮮、キュ―バだけだと言われる。日本は、民主主議国でありながら、半世紀近くも政権交代が無いことから、官僚機構や社会機能が化け物のように固まってしまい、ある意味で、相手が見えない、巧妙な、統治体制ができあがってしまった。
 これを変えるには、市民の代表である議員、市民が直接行動するNGO,そしてマスコミの連携による市民社会の地力を高めることが不可欠だ。
 この怪物の統治機構を変えるために、ロシアと日本の市民が連携しよう」と呼びかけた。

 「もう一つの日本」を変えることによって、「もう一つのロシア」を支援していきたい。
<資料>                                                                                                                                                                                                                                                                                                 
  1. 主な出席者
    (1) ロシア

    カシヤノフ前首相「国民民主連合」代表
    ハカマダ元大統領候補
    リモノフ「ボルシェビキ党」代表
    リズコフ「ロシア共和党」代表
    アンピロフ「働くロシア」代表
    カスパロフ元チェス世界チャンピオン
    イラリオノフ前大統領経済顧問
    アレクセーエワ「モスクワ・ヘルシンキ・グループ」代表
    サタロフINDEM(民主主義情報科学研究所)代表
    ルキアノーバ・モスクワ国立大学教授

    (2) 外国

    ダニエル・フリード国務次官補(アメリカ)
    バリー・ローエンクロン国務次官補(アメリカ)
    スチュアート・アイゼンシュタット元財務次官(アメリカ)
    カール・ガーシュマン米国民主主義基金理事長(アメリカ)
    クリストファー・ウエストダル大使(カナダ)
    アンドレア・ショッケンホフ国会議員(ドイツ)
    ヌスバウム・トランスペアレンシーインターナショナル理事長(ドイツ)
    エドワード・マクミラン・スコット欧州議会議員(イギリス)
    アンソニー・ブレントン大使(イギリス)
    ミッシェル・フノー欧州議会議員(フランス)
    アーロン国際ヘルシンキ人権連盟理事長(オーストリア)
    ベンゲ・グンタ、ラフトー財団コーディネーター(ノルウェー)
    ナディッツァ・ミハイロハ国会議員(ブルガリア)
    リマンタス大使(リトアニア)
    ハン・ドンファン「中国労働ブリテン」誌(中国)
    藤田幸久前衆議院議員、NGO役員(日本)
    秋元義孝公使(日本)
    倉井高志公使(日本)

  2. ロシアからの参加団体
    (1) 政治団体

    ロシア共和党、ボルシェビキ党、国民民主連合、働くロシア

    (2)公共運動、組合、協会

    ロシア市民フロント連合、公共民主連合
    広域NGO「オープン・ロシア」
    兵士の母委員会連合、「声」協会、連携委員会連合
    「働くロシア」運動

    (3)人権団体

    モスクワ・ヘルシンキ・グループ、国際人権・人道社会記念
    国際人権協会(AGORA)、青年人権活動(YHRM)
    「人権のために」全ロシア運動

    (4) 独立労働組合

    全ロシア労働連合、ロシア労働連合、防衛労働組合
    シベリア労働連合、独立鉱山夫労働組合、独立航空管制官労働組合

    (5)環境団体

    グリーン・ロシア党、環境社会組織(エコ・ディフェンス)
    社会組織(エコ・コンセント)、バイカル運動、社会環境連合
    グリーンピース・ロシア、IFAW

    (6) 青年組織

    青年公共民主連合、青年左翼フロント
    「民主オールタネーティブ」運動、「私たち」運動
    オボロナ運動、「チェンジ」運動、赤い青年アドバンス・ガード

    (7)公共組織

    防衛支援公共組織「ノルド・オスブ」、社会組織「ベスランの声」
    ロシア運転手運動、運転手運動「選択の自由」、「母国の英雄」財団
    欺れた投資家協会代表、消費者社会国際連合
    「陳腐なロシア」運動

    (8) 地域プレス

    地域プレス協会、ロシア・ジャーナリスト連合
    グラスノスト防衛財団