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東京ー北京フォーラム「経済対話」で講演2012年07月04日

7月2日に「第8回 東京-北京フォーラム」に出席しました。

 

 

 

言論NPOと中国日報社の共催で、メインテーマは、

 

「世界と未来に向けた新しい日中関係

     ~国交正常化40周年を踏まえた新しい日中関係を考える~」です。

 

 

主な参加者は、以下の通りです。

 

【日本側】:

武藤敏郎(大和総研理事長、前日本銀行副総裁)

玄葉光一郎(外務大臣)

福田康夫(元内閣総理大臣)

明石康(国際文化会館理事長、元国際連合事務次長)

 

【中国側】:

朱霊(中国日報総編集長)

王晨(国務院新聞弁公室主任)

曾培炎(中国国務院元副総理、中国国際経済交流センター理事長)

程永華(中華人民共和国駐日大使)

 

私は、2日午後に行われた「経済対話」にパネリストとして出席しました。テーマは「経済協力の促進と世界危機への日中の貢献」で、以下が事務局による概要です。

      

(左から)武藤敏郎(大和総研理事長、前日本銀行副総裁)、山口広秀(日本銀行副総裁)、槍田松瑩(三井物産会長、日本貿易会会長)、藤田幸久、河合正弘(アジア開発銀行研究所所長)

 

経済対話「経済協力の促進と世界危機への日中の貢献」

 http://tokyo-beijingforum.net/index.php/section-meeting/economic/8th

  私の発言概要は、以下の通りです。

一 EUの経済危機とアジアへの波及防止についての日本の取り組み

 

G20 ロスカボス・サミット(618日)

  日本は、欧州における危機の深刻化を防ぐため,EFSF債を継続的に購入するとともに,4月のG20財務大臣・中銀総裁会議に先立ってIMFの資金基盤強化への600億ドルの融資枠の貢献をいち早く表明して合意形成につなげるなど,欧州諸国の取り組みを積極的に支援してきた。今般、中国などが具体的な貢献を表明し、合計4500億ドル程に上った。市場の安心感を更に高めることができた。

 

  チェンマイ・イニシアティブの強化など

53日のASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議では、アジアの地域セーフティー・ネットであるチェンマイ・イニシアティブの強化がはかられた。

・日本は資金規模を2,400億ドルに倍増。危機対応機能に加えて危機予防機能の導入等に合意。

・ これは、「アジアから再び危機を起こさない」というアジアの固い決意と責任を世界に対して示したもの。

 

●日中韓財務大臣会議。日本側から積極的に二国間の通貨スワップを働きかけ、韓国の国債を日本が買うことで日中韓それぞれに持ち合いをすることが決まった。相互にとって前向きな話になった。今後とも3カ国の連携を強めていきたい。

 

●サーベイランス機能の強化も合意した。チェンマイ・イニシアティブのマクロ経済調査機関として昨年4月に発足したAMROASEAN+3 Macroeconomic Research Office)とIMFとの間で、経済政策のサーベイランスをはじめ、日ごろからの緊密な連携が必要である。AMRO事務局長が日本の根本洋一さんに。更なる協力体制を取りたい。

 

二.アジア域内通貨の使用拡大と日中金融協力合意

 

リーマン危機、あるいは今回のユーロ危機の際には、金融機関相互の資金融通が目詰まりを起こし、急速にドルの流動性が不足する事態が起こることが明らかになった。ドルの流動性が手に入りにくいという理由だけで、アジアでの貿易や投資の円滑なファイナンスが進まず、実体経済にも悪影響を及ぼすようなことは避けなければならない。今後は、日本円であれ、経常取引から徐々に国際的な使用を拡大している人民元であれ、あるいは韓国ウォンであれ、アジア域内の通貨の活用を改めて図っていく必要がある。

 

  昨年1225日には、北京での日本の野田首相と中国の温首相の首脳会談で、日中両国の金融市場の発展に向けた相互協力が合意された。その中では、①両国間のクロスボーダー取引における円・人民元の利用促進、②円・人民元間の直接交換市場の発展支援、③円建て・人民元建ての債券市場の健全な発展支援、④海外市場での円建て・人民元建ての金融商品・サービスの民間部門による発展の慫慂、これらの分野における相互協力を促進するための「日中金融市場の発展のための合同作業部会」の設置、が謳われた。

 

  この合意内容は、本年219日の安住財務大臣と王岐山副総理の会談で改めて重要性が確認され、合同作業部会も翌日の220日に第1回が開催された。この幅広い内容を含むイニシアティブは、将来的に東京が人民元の重要なオフショア市場になることなども目標に含まれる。人民元の国際的な使用の拡大については、中国自身が経常取引に続いて資本取引における人民元取引の段階的な自由化を進めつつあるが、人民元レートの柔軟性拡大や中国国内の金利や金融商品などの自由化とも関連するので、そう簡単な話ではない。しかし、両国が協力しつつそのプロセスの促進を図ってくことは、両国の利益になると考える。人民元の使用拡大は、日本円の使用拡大と対立するものでは全くなく、むしろ日中二国間やアジアでの人民元の使用拡大が円の使用も誘発し、また、日中の民間金融セクターのビジネスチャンスにもつながる、相互補完的なものと考えるべきである。

 

  なお、上記の日中首脳の合意の一環として、日本の外貨準備による中国の人民元建て国債への投資の手続きも開始され、迅速な中国当局の対応により既に約100億ドル(650億人民元)の枠が承認されている。中国が日本の国債への投資を既に相当行っていることから、国債投資の双方向性を確保し、両国外貨準備当局による情報交換の促進を含めた協力拡大を図るものである。日本の外貨準備による中国国債への投資は承認された枠の中でも当面限られた金額から開始する予定であり、日中両国において外貨準備の多くを占める米国ドルへの信認に問題があるということでは決してない。

 

三.アジア地域における金融セーフティネットの強化

 

  アジア地域でも、ユーロ圏の危機を受けた欧州系金融機関のデレバレッジによる影響は出てきている。このような状況に対応するには、地域の金融協力を強化し、アジア域内での相互の外貨支援によるセーフティネットを強化することが有効である。日本は、二国間の枠組みでも、地域としての枠組みでも、そのようなセーフティネットの強化に取り組んでいる。

 

  デレバレッジを数字で見ると、BISの統計で昨年6月末から9月末の間に、欧州系銀行のASEAN諸国及び韓国向け貸出は8%減少している。フランスの銀行だけで見ると25%もの減少である。一方、シェアで約15%を占める日本の銀行は同期間にこれらの国々への貸出を5%増加させており、欧州系銀行からの貸出減少を日本の銀行がある程度埋める形になっている。

 

  国によっても影響は異なり、例えば韓国ではデレバレッジの影響が大きく、昨年6月末から9月末にかけて同国への貸出は9%も減っている。この結果、韓国では9月末にかけて銀行のドル資金不足への懸念が高まり、ウォンの為替レートや株価は低下し、外貨準備も減少した。このような状況下、昨年10月には、韓国政府からの働きかけもあって、日韓両国間で二国間の通貨スワップの総額を従来の130億ドルから700億ドルへの拡充することが合意された。

 

  従来から日本の財務省と韓国銀行(中央銀行)の間には、マルチ化されたチェンマイ・イニシアティブによる支援の枠組みとは別に、二国間の枠組みでいわゆる「危機対応型」の米ドル・ウォン(及び米ドル・円)のスワップが100億ドル分あった。今回の拡充では、これに加え、日本銀行と韓国銀行の間のいわゆる「平時型」円・ウォンのスワップについて、限度額を従来の30億ドル相当から300億ドル相当に増額することとした。さらに、この「平時型」の円・ウォンのスワップを補完するものとして、危機的状況にない中で金融市場の安定を目的とした、いわゆる「為替安定型」の米ドル・ウォン(及び米ドル・円)のスワップを300億ドルの限度額で新たに締結した。

 

  日本は、インドとの間でも、昨年12月に通貨スワップ拡充に合意している。

 

  まとめ

米国のリーマン危機や欧州の財政危機などを見ると、世界的なマネーゲーム的金融システムの流れ自体を変える必要があると考える。そうした世界的なうねりに対して、アジア諸国が連携してセーフテーネットを高めるだけでなく、モノを生産し、イノベーションと地域の成長を高め、地域に貢献するといった実体経済を高めることが重要である。政治と行政の立場にいる人間として、政治と行政を改革して、そうした経済環境を支援しなければならないと、反省を込めて感じている。

 

 

 

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