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日銀金融政策決定会合(10月6日、7日)要旨2011年11月02日
日本銀行金融政策決定会合(10月6日、7日)の議事概要です。財務省を代表しての私の発言もございます。
公表時間 11月1日 (火) 8 時50 分
本議事要旨は、日本銀行法第2 0 条第1 項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2011 年10 月27日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。
(開催要領)
1.開催日時:2011 年10 月6日(14:01~16:31)
10 月7日( 9:01~ 12:32)
2 . 場 所:日本銀行本店
3.出席委員:
議長 白川方明 ( 総 裁)
山口廣秀 (副総裁)
西村淸彦 ( 〃 )( 注)
中村清次 (審議委員)
亀崎英敏 ( 〃 )
宮尾龍蔵 ( 〃 )
森本宜久 ( 〃 )
白井さゆり ( 〃 )
石田浩二 ( 〃 )
( 注) 西村委員は、7 日の会合のみ出席した。
4.政府からの出席者:
財務省 佐藤慎一 大臣官房総括審議官(6日)
藤田幸久 財務副大臣(7日)
内閣府 梅溪健児 政策統括官(経済財政運営担当)(6日)
大串博志 内閣府大臣政務官(7日)
( 執行部からの報告者)
理事 山本謙三
理事 中曽 宏
理事 雨宮正佳
理事 木下信行
企画局長 門間一夫
企画局審議役 梅森 徹( 7 日)
企画局政策企画課長 神山一成
金融市場局長 青木周平
調査統計局長 前田栄治
調査統計局経済調査課長 関根敏隆
国際局長 大野英昭
( 事務局)
政策委員会室長 飯野裕二
政策委員会室企画役 橘 朋廣
企画局企画調整課長 千田英継( 7 日)
企画局企画役 奥野聡雄
企画局企画役 河西 慎
金融市場局市場調節課長 正木一博( 7 日 9: 0 1~ 9: 1 4)
Ⅰ.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要
1.最近の金融市場調節の運営実績
金融市場調節は、前回会合( 9 月6 ~ 7 日) で決定された方針のもとで、金融市場における需要を十分満たす潤沢な資金供給を行い、金融市場の安定確保に万全を期した。こうした中、無担保コールレート( オーバーナイト物) は、0.07% 台半ばから0.08% 台半ばの間で推移した。
2.金融・為替市場動向
短期金融市場は、日本銀行による潤沢な資金供給のもとで、安定的に推移している。G C レポレートは、0.1% 近傍で推移している。
ターム物金利をみると、短国レートは1年物まで含めて0.1%で推移しており、短国のイールドカーブはフラット化した状態が続いている。長めのターム物の銀行間取引金利は、横ばい圏内の動きとなっている。
長期金利は、1.0% 前後で推移している。株価は、米欧株価が大きく調整したことが嫌気され、年初来安値となる水準まで下落したが、その後は持ち直し、日経平均株価はこのところ8 千円台半ばで推移している。為替市場をみると、円の対米ドル相場は、米国金利が低水準で推移する一方、介入警戒感が根強いこともあって、狭いレンジ内での動きとなっており、足もとでは76 円台で推移している。
3.海外金融経済情勢
世界経済は、減速しつつも回復を続けている。
米国経済は、回復を続けているが、そのテンポはごく緩やかなものにとどまっている。輸出や設備投資は緩やかに増加している。こうしたもとで、生産は、増加基調を維持している。一方、個人消費は、バランスシート問題が重石となる中、雇用環境の改善鈍化や家計のマインド悪化を受けて、ごく緩やかな改善にとどまっている。
住宅投資については、住宅価格が軟調に推移する中、なお低水準で
「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」
推移している。物価面では、財市場や労働市場の緩和的な需給環境
がなお物価押し下げ圧力として作用しているものの、既往の国際商
品市況上昇の影響などから、総合ベースの消費者物価の前年比はプ
ラス幅が幾分拡大しており、エネルギーと食品を除いたベースの消
費者物価の前年比もプラス幅が拡大している。
欧州経済をみると、ユーロエリア経済は、横ばい圏内の動きとなっている。輸出は、海外経済の減速を受けて伸び悩んでおり、個人消費は、概ね横ばいとなっている。欧州ソブリン・リスク問題の悪化から、消費マインドの低下はドイツなど主要国にも波及している。一方、民間設備投資は緩やかな増加を続けている。物価面をみると、総合ベースの消費者物価の前年比プラス幅は、四半期ベースでは幾分縮小しているものの、9 月単月ではプラス幅がやや拡大した。緩和的な需給環境や賃金の低い伸びが、なお物価押し下げ圧力として作用する一方、加工食品の価格上昇などがインフレ圧力として作用している。この間、英国経済も、横ばい圏内の動きとなっている。
アジア経済をみると、中国経済は、全体として高成長を続けている。輸出に減速感が窺われるほか、個人消費の伸びが幾分鈍化しているものの、固定資産投資が高い伸びを続けている。インド経済は、金融引き締めの影響から幾分減速しているが、高めの成長を続けている。N I E s 、A S E A N 経済は、内需が底堅く推移していることに加え、輸出や生産が緩やかながら増加していることから、景気の回復が続いている。物価面をみると、これらの国・地域の多くで、既往の食料品・原材料高や労働需給の逼迫を受けた賃金上昇率の高まりを背景に、物価上昇圧力の強い状態が続いている。
海外の金融資本市場では、欧州ソブリン・リスク問題に対する懸念や世界経済の先行きに対する不透明感から、投資家のリスク回避姿勢が強まる中、世界的に株価は引き続き大きく振れるなど、緊張の高まった状況が続いている。投資家の安全資産選好を受けて、米国・ドイツの長期金利が低い水準で推移する一方、欧州各国の国債利回りの対独スプレッドは、全般的に高止まっている。クレジット市場では、低格付け物を中心に社債の対国債スプレッドが拡大基調を辿っているほか、銀行間取引市場では、カウンターパーティ・リスクが意識され、ターム物金利が高水準で推移している。新興国の金融資本市場では、投資家のリスク回避的な姿勢が強まる中、投機的ポジションの巻き戻しもあって、株価が下落したほか、通貨も総じて軟調に推移している。
4.国内金融経済情勢
(1)実体経済
生産や輸出は、震災による落ち込みからの回復過程に比べてペー
スは緩やかになっているが、増加を続けている。先行きについては、
輸出は、海外経済が、当面減速するものの、基調的には底堅く推移
するもとで、海外在庫の復元の動きもあって、緩やかな増加基調を辿るとみられる。こうしたもとで、生産は、緩やかな増加を続けると考えられる。
公共投資は、振れを伴いつつも、このところ下げ止まりつつある。
先行きについては、被災した社会資本の復旧などから、徐々に増加
していくとみられる。
設備投資は、被災した設備の修復もあって、緩やかに増加しており、先行きは増加を続けるとみられる。
雇用・所得環境は、一部に改善の動きがみられるものの、厳しい状態が続いている。
個人消費は、一部に弱さが残っているものの、全体としては持ち直している。先行きは、雇用環境が徐々に改善に向かうもとで、底堅く推移するとみられる。
住宅投資は、供給制約の解消などから、持ち直しの動きが明確になっている。先行きは、被災住宅の再建もあって、徐々に増加していくと予想される。
物価面をみると、国際商品市況は、このところ下落している。国内企業物価を3 か月前比でみると、国際商品市況の動きを反映して、横ばい圏内の動きとなっている。先行きについては、当面、弱含みで推移するとみられる。消費者物価( 除く生鮮食品) の前年比は、概ねゼロ% となっている。先行きは、当面、ゼロ% 近傍で推移するとみられる。
(2)金融環境
わが国の金融環境は、中小企業を中心に一部企業の資金繰りに厳
しさがなお窺われるものの、緩和の動きが続いている。
コールレートがきわめて低い水準で推移する中、企業の資金調達
コストは緩やかに低下している。実体経済活動や物価との関係でみ
ると、低金利の緩和効果はなお減殺されている面がある。資金供給
面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、改善傾向が続いてい
る。C P 市場では、良好な発行環境が続いている。社債市場の発行
環境についても、発行体の裾野に拡がりがみられるなど、良好な状
態が続いている。資金需要面をみると、運転資金需要が増加する動
きがみられている。以上のような環境のもとで、企業の資金調達動
向をみると、銀行貸出は減少幅が緩やかに縮小している。社債・C
P の残高は前年を上回っている。こうした中、企業の資金繰りをみ
ると、中小企業を中心に一部で厳しいとする先がなおみられている
が、総じてみれば、改善した状態にある。この間、マネーストックは、前年比2%台後半の伸びとなっている。
被災地の金融環境をみると、企業の資金繰りは改善傾向にあり、倒産件数も前年を大幅に下回っている。被災地金融機関では、保険金や義援金などの受け入れから預金が大幅に増加している一方、復興資金需要はなお本格化していないため、資金繰りに問題は生じていない。こうしたもとで、被災地金融機関支援オペによる資金供給額の合計は約4,500 億円と、4 月に設定した上限1 兆円の半分弱となっている。
Ⅱ.「適格担保取扱基本要領」の一部改正等について
1.執行部からの提案内容
適格担保の担保掛け目等について、最近の金融市場の情勢等を踏
まえた年次レビュー結果に基づきこれを見直すこととし、「適格担
保取扱基本要領」等の一部改正を行うこととしたい。
2.委員会の検討・採決
採決の結果、上記案件について全員一致で決定され、対外公表す
ることとされた。
Ⅲ.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要
1.経済情勢
国際金融資本市場について、委員は、欧州ソブリン・リスク問題
に対する懸念や世界経済の先行きに対する不透明感から、投資家の
リスク回避姿勢が一段と強まっており、緊張の高まった状況が続い
ているとの認識を共有した。また、投資家の強い安全資産選好を反
映して、米国やドイツの国債、あるいは円など、安全とみなされている資産・通貨には、資金が集まりやすくなっているとの見方で一致した。
ソブリン・リスク問題について、多くの委員は、ギリシャの財政再建や構造改革への取り組みが難航する中、欧州諸国の国債を多く保有する欧州系金融機関の財務の健全性に対する懸念が高まっているとの認識を示した。また、欧州金融安定ファシリティの機能拡充や規模拡大に向けた対応に時間を要していることもあって、欧州の金融システム全体に対する不安心理が強まっていると指摘した。複数の委員は、欧州系金融機関に対する懸念は、クレジット市場では、C D S プレミアムの上昇や社債市場のタイト化というかたちで表れていると述べた。何人かの委員は、最近の動きとして、投資家のリスク回避姿勢が一段と強まった結果、新興国からの資金流出が生じている点に懸念を示した。ある委員は、現在の欧州の状況について、① 通常時はリスク・フリー資産として金融取引に広範に用いられている国債の信用力に疑義が生じている、② 政策発動に多くの国の合意・承認が必要で、時間を要する、③ 追加的な金融政策および財政政策の発動余地が限られてきている、といった点では困難があるが、④ リーマンショック後、金融機関に対する流動性供給や資本強化について、体制整備が進んでいるというプラスの面もあると述べた。
海外の経済情勢について、委員は、現状、先進国を中心に成長が
鈍化傾向にあるが、先行きについては、当面減速するものの、基調
的には、新興国の成長に支えられて底堅く推移するとの見方を共有
した。
米国経済について、委員は、回復を続けているものの、そのテンポはごく緩やかなものにとどまっているとの認識を共有した。多くの委員は、個人消費の伸び悩みの背景として、住宅市場の低迷、雇用環境の改善ペースの鈍化、株価下落を受けた消費者コンフィデンスの悪化などを指摘した。何人かの委員は、生産、企業収益、設備投資などは底堅く推移しており、企業部門を中心に回復に向けた動きは維持されているとの見方を示した。先行きについて、委員は、バランスシート調整圧力が引き続き経済の重石となっているもとで、財政面や金融面からの景気梃子入れ余地が限定的なことから、当面、景気回復は緩やかなペースにとどまるとの見方を共有した。複数の委員は、幾つかの金融機関において住宅ローン関連損失の拡大が見込まれているなど、住宅バブル問題の解決にはなお時間を要する可能性があると指摘した。一人の委員は、失業が更に長期化することにより、期待成長率が低下し、低成長の長期化につながる可能性があると指摘した。ある委員は、既往の国際商品市況高の調整や、米政府が検討している経済・雇用対策等を踏まえれば、先行きを過度に悲観視するのは適当ではないと述べた。
ユーロエリア経済について、委員は、横ばい圏内の動きとなっているとの認識を共有した。多くの委員は、海外経済の減速を受けた輸出の伸び悩みに加えて、家計のマインド悪化に伴う個人消費の弱含みなどから、これまで欧州経済を牽引してきたドイツなど主要国においても、成長が鈍化していることを指摘した。こうした状況について、これらの委員は、ソブリン・リスク問題の影響が、マインドの悪化を通じて、実体経済にも及んできているとの見方を示した。
先行きについても、委員は、ソブリン・リスク問題を巡る金融資本市場の緊張が続く中、財政支出の削減や、企業および家計のマインド悪化を背景に、弱い動きが続くとの見方で一致した。新興国・資源国経済について、委員は、輸出の減少や既往の金融引き締めの影響から、成長テンポが鈍化してきているが、堅調な需要を背景に、総じて高めの成長を維持しているとの見方で一致した。
先行きについて、委員は、基本的には、新興国・資源国は高めの成
長で世界経済を牽引していくとみられるが、物価安定と成長を両立
することができるか、なお不透明感が高いとの認識を共有した。あ
る委員は、新興国の一部において、物価上昇率が高止まる中で金融
引き締めを中断する動きがみられることに言及し、物価安定と成長
の両立の難しさが一部で顕現化しているようにみえると述べた。また、何人かの委員は、投資家がリスク回避の一環として新興国から資金を引き揚げる動きをみせている点について、こうした動きが拡がることになれば、新興国の経済活動を金融面から下押す可能性があると指摘した。ある委員は、中国においては、やや長い目でみて、地方からの低賃金労働者の供給余地が乏しくなるなど、構造的な転換点が到来しつつあり、潜在成長力が低下する可能性にも留意が必要であると述べた。
以上の議論を経て、① 欧州では、ソブリン・リスク問題の影響の深刻化を受けて、財政と金融システム、実体経済の負の相乗作用が強まっていくリスクがあること、② 米国では、雇用の改善テンポが依然として緩慢なうえ、家計のバランスシート調整や住宅市場の調整が長引くもとで、景気は上方に弾みにくく、下方に振れやすい状況が続くと考えられること、③ 新興国・資源国では、物価安定と成長を両立することができるかどうか、なお不透明感が高いこと、など、海外経済の先行きには引き続き留意が必要との見方で一致した。
こうした海外の金融経済情勢を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。
景気の現状について、委員は、持ち直しの動きが続いているとの見方で一致した。また、生産や輸出について、震災による落ち込みからの回復過程に比べてペースは緩やかになっているが、増加を続けているとの認識を共有した。そのうえで何人かの委員は、情報関連財など一部で、輸出の勢いに陰りがみられることを指摘した。委員は、設備投資は緩やかに増加しており、個人消費は持ち直してい
るとの認識を共有した。何人かの委員は、9 月短観における今年度
設備投資計画が堅調であったことを指摘した。また、委員は、住宅
投資は持ち直しの動きが明確になっており、公共投資も下げ止まり
つつあるとの見方で一致した。
景気の先行きについて、委員は、海外経済は、当面減速するものの、基調的には底堅く推移すると考えられること、そうしたもとで、輸出は、緩やかな増加基調を辿ること、資本ストックの復元に向けた国内需要が顕現化してくることなどから、わが国経済は緩やかな回復経路に復していくとの見方を共有した。
景気の先行きを巡るリスクについて、委員は、海外情勢を巡る不確実性や、それらに端を発する為替・金融資本市場の変動が、わが国経済に与える影響に、引き続き最も注意が必要であるとの見方で一致した。多くの委員は、欧州のソブリン・リスク問題が世界経済全体を下押しする中で、輸出が下振れるリスクが高まっているとの認識を示した。このうち、複数の委員は、とりわけ自動車や情報関連の海外需要の下振れには注意が必要であると付け加えた。何人かの委員は、これまでの円高が、輸出や企業収益の悪化をもたらすだけでなく、企業や家計のマインド悪化を通じて、より広範な影響をもたらす可能性に注意が必要であると指摘した。このうちの一人の委員は、円高の定着が一因となって、基幹工場や研究開発拠点の海外シフトが加速するようなことがあれば、産業空洞化をもたらすとともに、わが国の成長期待が低下する惧れがあると述べた。別の一人の委員は、最近、円高を活かした海外企業の買収例が急増していることは、わが国の潜在成長力を高めるものとして、積極的に評価できる面もあると述べた。この間、複数の委員は、電力供給制約の影響も引き続き意識しておく必要があると指摘した。こうした議論を踏まえて、委員は、わが国経済を巡る不確実性は引き続き高く、下振れリスクを意識する必要があるとの認識を共有した。
消費者物価( 除く生鮮食品) の前年比について、委員は、概ねゼロ% となっており、10 月以降、昨年引き上げられたたばこ税や傷害保険料のプラス寄与が剥落することもあって、当面、ゼロ% 近傍で推移するとの見方で一致した。何人かの委員は、国際商品市況の反落やこれまでの円高が、当面、物価の下押し要因として働く可能性に言及した。やや長い目でみた消費者物価の動向について、委員は、需給ギャップの縮小を受けて緩やかに上昇していくとの認識を共有した。ある委員は、国内企業の価格支配力は、震災後に一時的に高まったものの最近では再び低下しているとみられるとしたうえで、円高に伴う企業マインドの悪化などと相俟って、物価安定の実現が後ずれするリスクに留意が必要であると述べた。
この間、消費者物価の基調判断にどのような指数を用いるべきか
についても議論がなされた。何人かの委員は、生鮮食品を除く消費
者物価の前年比は、先般の基準改定によって低下したが、物価の実
勢に変化が生じた訳ではなく、需給ギャップが縮小するもとで、デ
フレ脱却の方向に向かっていること自体は変わっていないと述べた。
一人の委員は、購入頻度の低い品目を除いた消費者物価指数の前年
比がはっきりとしたプラスとなっていることを指摘したうえで、人々の物価観は、ヘッドラインの指数でみるほど、低くはないかもしれないと述べた。ある委員は、基調的な物価変動を捉えるうえで完璧な指数を作ることは困難であり、様々な指標を総合的に判断していくという姿勢が重要ではないかとの見解を示したうえで、基調的な物価動向の適切な捉え方については、引き続き検討を行っていく必要があるとコメントした。
2.金融面の動向
わが国の金融環境について、委員は、中小企業を中心に一部企業
の資金繰りに厳しさがなお窺われるものの、緩和の動きが続いてい
るとの見方で一致した。
短期金融市場について、委員は、日本銀行による潤沢な資金供給
のもとで、引き続き、落ち着いて推移しているとの見方を共有した。
何人かの委員は、米ドルの調達環境に関して、欧州系金融機関に対
するカウンターパーティ・リスクが強く意識されているものの、邦銀については、落ち着いた調達環境が維持されているとの認識を示した。何人かの委員は、株価の軟調や円高の動きなどに言及しつつ、国際金融市場における緊張の高まりがわが国金融市場に及ぼす影響について、引き続き注意してみていく必要があるとの認識を示した。
企業金融について、委員は、企業からみた金融機関の貸出態度は改
善傾向が続いており、C P 市場、社債市場ともに、良好な発行環境
が続いているとの認識を共有した。また、企業の資金繰りについて、
委員は、中小企業を中心に一部で厳しいとする先がなおみられてい
るが、総じてみれば改善した状態にあるとの見方で一致した。複数
の委員は、9 月短観における貸出態度判断D I や資金繰り判断D I
の改善からも、こうした状況が確認できると述べた。
Ⅳ.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要
次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、委員は、
「無担保コールレート( オーバーナイト物) を、0 ~ 0 .1 % 程度で
推移するよう促す」という現在の方針を維持することが適当である
との見解で一致した。
当面の金融政策運営について、委員は、8 月に一段と強化した金
融緩和措置のもとで金融資産の買入れを着実に進め、その効果の波
及を確認していくことが適当であるとの認識を共有した。そのうえで、何人かの委員は、欧州ソブリン・リスク問題の拡がりに起因する国際金融資本市場の不安定化等を背景に、前回会合よりも経済・物価の下振れリスクは幾分高まっているのではないかと述べた。何人かの委員は、今後、必要に応じて適切な措置を講じていくことが重要であるとの見解を示した。このうちの一人の委員は、事態の展開によっては、先行き更なる金融緩和が必要となる可能性もあるとの認識は、前回会合から変わっていないと付け加えた。複数の委員は、米・欧の中央銀行と協調して行っている米ドル資金供給オペレーションは、国際的な金融市場の安定確保に重要な役割を果たしており、今後ともこうした中央銀行間の協調が重要であると述べた。
10 月末に貸付受付期間が終了する被災地金融機関を支援するため
の資金供給オペレーションについて、委員は、受付期限を延長し、未実行の貸付枠を活用することにより、引き続き、被災地の金融機関における復旧・復興に向けた資金需要への対応を支援することが適当との見解で一致した。大方の委員は、延長後の期限について、被災地金融機関の年末、年度末の資金繰りに万全を期す観点から、来年4 月末とすることが適当と述べた。何人かの委員は、本オペレーションの実施期間と合わせるかたちで決定した、被災地企業等債務にかかる担保適格要件の緩和措置の適用期限についても、同様に6 か月延長し、2013 年4 月末としてはどうかと述べた。複数の委員は、今後の対応については、復興資金需要の動向やそれに対する民間金融機関の取り組みのほか、政府等による支援の状況なども踏まえつつ、必要に応じて、中央銀行としての適切な対応を検討していくことが適当であると述べた。
以上の議論を経て、議長は、本オペレーションの貸付受付期間の延長等に関する委員の意見は収斂していると判断し、他の委員もそれに同意したことから、本会合において、基本要領の改正を決定することとした。これを受けて、執行部は基本要領の改正案を作成し、説明を行った。その後、政策委員による検討が行われ、最終的な付議文案として「『被災地金融機関を支援するための資金供給オペレーション基本要領』等の一部改正に関する件」が作成された。
Ⅴ.政府からの出席者の発言
財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。
わが国の経済情勢をみると、持ち直しているものの、急速な円高
の進行、更には欧米経済の停滞感の高まりが、景気を下振れさせる
重大なリスクとなっており、政府として強い懸念を持っている。
産業の空洞化を防ぐため、政府としては、第3次補正予算等を活
用し、①中小企業金融の更なる充実など円高の「痛み」を緩和する
こと、②立地補助金の思い切った拡充等により産業空洞化を防ぎ、
リスクに負けない強靭な経済を構築すること、③日本企業による海
外企業の買収や資源権益の獲得等、円高メリットを徹底活用するこ
と等を早急に進めることが重要である。9月20 日に中間報告を公
表した「円高への総合的対応策」の最終取り纏めも、可能な限り早
急に進めていく。なお、第3次補正予算の成立を待たずに可能な対
応は、迅速に行うことが重要であり、「円高に対応した雇用調整助
成金の要件緩和」等や、「海外M&Aや資源確保等の促進」等を直
ちに着手・実施することとした。
本日、被災地金融機関支援オペの延長が提案されたことについて
は、震災の復旧・復興に資する取り組みと評価している。政府とし
ては、円高の進行と欧米経済の停滞懸念による景気下振れリスクが
急速に高まりつつあることなどを踏まえ、今後のマクロ経済運営に
はより一層細心の注意を払う必要があると考えており、引き続き日
本銀行と一体となって取り組んでいきたい。日本銀行におかれても、
現下の厳しい経済状況に対する認識を政府と共有し、欧米経済の動
向や為替市場を含む金融・資本市場の変動が、わが国経済に与える
影響等を踏まえながら、果断な金融政策対応をお願いしたい。
また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。
わが国の景気は、サプライチェーンの立て直し等により持ち直し
ている。先行きは、復興需要により景気の持ち直し傾向が続くと期待されるが、欧州の財政問題を背景とした国際金融情勢の不安定化、海外景気の下振れ懸念や急速な円高の進行等、わが国景気の下振れリスクが強まっていることには十分な留意が必要である。
物価については、コアCPI上昇率は2か月連続で僅かなプラスとなったが、物価の基調は下落が続いているなど、依然として緩やかなデフレ状況にある。こうした中で、円高の進行がデフレを強め、また、逆にデフレが円高をもたらすという悪循環に陥ることのないよう対処していくことが重要である。
政府としては、急速な円高の進行等による景気下振れリスクや産
業空洞化リスクに先手を打つとの考え方のもと、円高の痛みの緩和、リスクに強靭な経済の構築、円高メリットの徹底活用を柱とした「円高への総合的対応策」の最終取り纏めを早急に行う。これを含む平成23 年度第3次補正予算案の早期成立を図り、東日本大震災からの復興に全力で取り組むとともに、円高対応策を迅速に実施することにより、景気下振れリスクを最小化し、日本経済の持続的な成長への道行きを確実なものとするよう努力していく。
わが国経済は、国際金融情勢の不安定化や投資家のリスク回避姿
勢の強まり、景気の下振れリスクの高まり、円高とデフレの悪循環の懸念という困難に直面している。日本銀行におかれては、被災地の復旧・復興を引き続き金融面から支えて頂くとともに、政府との一層緊密な情報交換・連携のもと、適切かつ果断な金融政策運営により経済をしっかりと下支えするようお願いしたい。
Ⅵ.採決
1.金融市場調節方針
以上の議論を踏まえ、委員は、当面の金融市場調節方針について、
「無担保コールレート( オーバーナイト物) を、0 ~ 0 . 1 % 程度
で推移するよう促す」という現在の金融市場調節方針を維持するこ
とが適当である、との考え方を共有した。
議長からは、このような見解を取りまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。
金融市場調節方針に関する議案(議長案)
1.次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとお
りとすること。
記
無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0~0.1%程
度で推移するよう促す。
2.対外公表文は別途決定すること。
採決の結果
賛成:白川委員、山口委員、西村委員、中村委員、亀崎委員、
宮尾委員、森本委員、白井委員、石田委員
反対:なし
2 . 「被災地金融機関を支援するための資金供給オペレーション基本
要領」等の一部改正に関する件
次に、「『被災地金融機関を支援するための資金供給オペレーション基本要領』等の一部改正に関する件」が、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、適宜の方法で公表することとされた。
Ⅶ.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)の検討
対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が検討され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、
直ちに公表することとされた。
Ⅷ.議事要旨の承認
議事要旨(9月6、7日開催分)が全員一致で承認され、10 月13 日
に公表することとされた。
以 上
2011年10月7日
日本銀行
当面の金融政策運営について
1.日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定
会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致(注1))。
無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0~0.1%程度で推移するよう促す。
2.わが国の経済は、持ち直しの動きが続いている。すなわち、生産や輸出は、震災による落ち込みからの回復過程に比べてペースは緩やかになっているが、増加を続けている。こうしたもとで、設備投資は緩やかに増加しているほか、個人消費についても、全体としては持ち直している。この間、金融環境をみると、中小企業を中心に一部企業の資金繰りに厳しさがなお窺われるものの、緩和の動きが続いている。
物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、概ねゼロ%となっている。
3.先行きについて、海外経済は、当面減速するものの、基調的には、新興国を中心に底堅く推移すると考えられる。そうしたもとで輸出が緩やかな増加基調をたどることや、資本ストックの復元に向けた国内需要が顕現化してくることなどから、わが国経済は、緩やかな回復経路に復していくと考えられる。消費者物価の前年比は、当面、ゼロ%近傍で推移するとみられる。
4.景気のリスク要因をみると、欧州のソブリン問題の帰趨や、バランスシート調整が米国経済に与える影響について、引き続き注意が必要である。新興国・資源国では、物価安定と成長を両立することができるかどうか、なお不透明感が高い。こうした海外情勢を巡る不確実性や、それらに端を発する為替・金融資本市場の変動が、わが国経済に与える影響については、引き続き、丹念に点検していく必要がある。
物価面では、国際商品市況の先行きについては、上下双方向に不確実性が大きい。
また、中長期的な予想物価上昇率の低下などにより、物価上昇率が下振れるリスク
(注1)賛成:白川委員、山口委員、西村委員、中村委員、亀崎委員、宮尾委員、森本委員、白井委員、石田委員。
反対:なし。
別 紙
もある。
5.被災地金融機関を支援するための資金供給オペレーションについては、その受付期限を6か月延長し、2012 年4月末とすることとした。被災地企業等にかかる担保適格要件の緩和措置についても、その適用期限を6か月延長し、2013 年4月末とすることとした。
6.日本銀行は、現在、8月に一段と強化した金融緩和措置のもとで、金融資産の買入れ等を着実に進めている。また、日本銀行は、「中長期的な物価安定の理解」(注2)
に基づき、物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで、実質ゼロ金利政策を継続していく方針である。日本銀行としては、こうした包括的な金融緩和政策を通じた強力な金融緩和の推進、さらには、金融市場の安定確保や成長基盤強化の支援を通じて、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰するよう、中央銀行としての貢献を粘り強く続けていく。今後とも、先行きの経済・物価動向を注意深く点検したうえで、適切に対応していく方針である。
以 上
(注2) 「消費者物価指数の前年比で2%以下のプラスの領域にあり、中心は1%程度である。」
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