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【多文化情報誌『イミグランツ』編集長日記】違和感覚えるワシントンポストの社説2010年03月19日

違和感覚えるワシントンポストの社説

多文化情報誌『イミグランツ』編集長(石原進元毎日新聞論説委員)日記 2010年3月19日

3月8日付のワシントンポスト紙の社説に関して、以下の寄稿がありましたので、ご紹介致します。

 ワシントンポストといえば、ニューヨークタイムズと並ぶ米国の有力紙です。ピューリッツア賞も数多く受賞しています。ジャーナリズムの世界では、一つの権威ともみられています。 私が刊行する多文化情報誌イミグランツ2号でも「WポストとNYタイムズ」と題した記事を載せました。これはリーマーンショック後の日本政府の在日日系人への対応に関するニューヨークタイムズとワシントンポストの記事をとりあげ、政府の対応のちぐはぐさを指摘したものです。 政府が内閣府に定住外国人施策支援室を設置したことを評価したワシントンポスト。これに対しニューヨークタイムズは日系人向けの帰国支援事業で、帰国支援金の支給を受けた日系人に再入国を認めないという政府の措置を「追い出し策だ」と批判しています。両紙とも日本政府の外国人受入れ政策に強い関心を示し、的確な分析と高い見識には一目置くべきものがあると思います。 ところが、3月8日付のワシントンポストは「日本における有毒は思想――9・11事件の共謀説が日本の与党を支配しているか」と題した社説を掲載しました。社説を書いたのは、リー・ホックスタッダー記者です。その内容は私の知人である藤田幸久参院議員(民主党国際局長)への批判、中傷に終始しているものでした。藤田議員は9・11事件に関する米政府の調査報告書には数々の疑問があるとし、事件がアフガン戦争の「原点」である以上、真相究明は不可欠であるとして、この問題を国会で取り上げ、著書も出版しています。 私は成城学園大学の非常勤講師をしていた2年前、「マスコミ論」の講義の中でこの問題を取り上げました。世界を揺るがした事件であるにもかかわらず、①航空機が突っ込んで全壊した貿易センタービルそばの7階建てビルがなぜ倒壊したのか②航空機が衝突した国防総省には航空機の翼が衝突した痕跡がない③ハイジャックされ、墜落した航空機から乗客が携帯電話で知人に連絡したといわれたが、飛行中の航空機からは携帯電話がかけられないはず――など数々のナゾがあることを説明したところ、学生たちは驚きを隠しませんでした。学生に感想文を書かせたのですが、陰謀説を唱える学生もいましたが、いままで「多くのナゾ」があることすら知らなかったため「新鮮な驚き」を感じた学生が多かったように記憶しています。感想文からはビビッドな反応が感じられました。 藤田議員のメールマガジンの掲載されたポスト紙の社説は、藤田議員の「9・11事件は巨大な虚構であると考えているようである」とし、その考えは「余りにも奇妙で生半可であり、知的な偽物であり、真剣な議論に値しない」と断じています。「真剣な議論に値しない」といっているからなのか、その社説は藤田氏批判のトーンを挙げているだけで、議論の具体的な根拠をまったく書いていません。にもかかわらず「藤田氏に関して注目すべき唯一のことは狂った少数派の想像の影響をこんなに受けやすい人物が世界第二の経済大国の政界で重要な地位を占めているということである」とまで述べ、それを民主党の「反米感情」に結び付けているのです。 藤田議員側は社説が藤田議員の肩書を間違えたことや、取材そのものが不適切だったことも含めて抗議し、藤田議員の「言い分」がポスト紙に掲載されましたが、社説が取り消されたわけではありません。 私は3年前まで毎日新聞の論説副委員長として他の論説委員の書いた社説をチェックする仕事をしてきました。そもそも米国の新聞の社説と日本の新聞の社説とでは位置づけや書き方が違うのかもしれませんが、ホックスタッダー記者が書いたような個人に向けて批判一辺倒の社説が日本の新聞には載ることはないでしょう。主張はともかく、余りにも粗雑で乱暴な記事です。私がデスクなら、個人的なコラムとしても新聞への掲載をためらい、「自分のブログに乗せたらどうか」と冷たく言い放つでしょう。 私は知り合いであり様々な場面で意見交換もしている藤田議員の側からポスト紙の社説を批判しているかもしれませんが、それにしても……という感じなのです。とはいっても、日本の外国人問題に関するホックスダッター記者の記事を私は高く評価しています。論理的かつ的確な指摘が随所に盛り込まれているからです。日本の記者にはない視点があります。藤田議員に対しては民主の移民政策に関する取材をしたということですから、そちらの記事を楽しみにしています。(了)