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第26回藤田幸久政経フォーラム講演概要 「中国を考える」 中嶋 嶺雄 国際教養大学理事長・学長2005年03月25日


活動報告

2005年3月25日(金)

第26回藤田幸久政経フォーラム講演概要

「中国を考える」 中嶋 嶺雄 国際教養大学理事長・学長


◎ 演題: 「中国を考える」
◎ 講師: 国際教養大学理事長・学長、前東京外国語大学長、国際社会学者
中嶋 嶺雄  氏




《講演要旨》

 中国を理解するためには、常識のレンズで見ることが必要である。日本人は中国と聞くと昔から日本と歴史的な関わりがあったため情緒的に認識しがちである。

  • 朝日新聞や日本経済新聞などのメディアは中国共産党の機関紙「人民日報」と業務提携をしている。そのため、これらのメディアは自己規制をしなければならない。中国の良い面は大きく取り上げているが、悪い面をあまり記事に書いていない。書くべきことを書いておらず、その結果虚像が一人歩きをしている。「世界の工場」と呼ばれるようになり経済発展を遂げ豊かになっているというイメージにつられて、中国へ海外進出する日本企業が増えている。
  • 中国の国土は日本の26倍の面積があり、人口は13億人である。しかし、その広大な国土の大部分は不毛の地で、人が住むことができる部分は日本の面積の3倍しかなく中国は狭い国だ。人口の70%は農業に従事しているが、不毛の地が多いことや水の確保が難しいことから食糧の自給ができていない。13億という人口を支えるだけの資源やエネルギーの確保ができておらず、これからの中国は多くの問題を抱えるだろう。中国はストレスが多い社会である。
  • 経済の観点から中国はどんな社会であるかを見ていくと中国は貧富の差が激しい社会と分かる。世界経済における中国の割合は4%で、日本15%、米国31%に比べまだ多くないが、その割合は増え続けている。毎年GDP9%の経済成長をしているのにも関わらず、一人当たりのGDPは日本が約$35,000に比べ$1,000と少ない。この日本と中国との差は縮まることはない。
  • 中国から日本に不法就労する人が問題となっているが、これは日本と中国の格差が大きいことを示している。日本へ来るのは日本に来て1年間働けば、中国で一生生活できるお金を稼ぐことができるからである。
  • 不法就労者が絶えないため、日本政府は取締りを厳しくするために留学生に発行するビザの基準を厳しくしようとしている。ビザには留学生用と就学生用の2つの種類があり、留学生ビザは外国から日本の大学・大学院へ来る人へ、就学生ビザは外国から日本の専門学校や日本語学校で勉強しにくる人に発行される。しかしビザを申請するためには成績証明書やパスポートが必要だがこれを偽造して日本に来る人が多い。学校への入学は許可されたが、入国管理局が入国を拒否したというようなケースが多い。
  • 2008年に中国でオリンピックが開催される頃が転換期になる。上海や北京などの都市部はきれいに飾られ発展しているように見えるが、内陸の都市は貧しいままで持つものと持たざるものの差が広がっている。富裕層と貧困層の収入の比率が日本は4対1、台湾は6対1であるが中国は100対1である。貧困層は不満を持っているが政府は天安門事件があった時と同じように上から力で押さえている。共産党一党独裁政治がこれをコントロールできるか課題である。また産業構造の転換を日本が辿ったような過程を経て出来ておらず、それを支えられるかも今からの中国の課題である。
  • 中国が自己中心的な外交を行うのは、古くからの中国人の発想からである。天子は天命を受けて天下を治める易姓革命という政治思想が古来よりあったが、今の中国も共産党独裁で一部のエリートだけが政治を行っており、国の名前だけ変わっていて本質は何も変わっていない。この発想による秩序観では、中国の天子(皇帝)が世界の中心に位置していて、その周辺国は中国の属国と考えられていた。日本は朝貢国のような扱いを受けている。

     中国の歴史的思想は天子(皇帝)を中心とした同心円的構造=中華帝国である。日本は邪馬台国時代に卑弥呼が中国へ朝貢していた。しかし、聖徳太子が中国を日本と同等の立場として扱った際に中国の天子が憤慨したという事実が示すように、その時代から中国は日本を朝貢国と見る意識があるといえる。つまり中華思想のレベルでは日本と中国が同等な立場とは考えられていない。

     中国独特のこの対外認識が日中関係を複雑にさせている一要因である。

  • EUは対中武器禁輸を解除しようと検討していたが、中国が反国家分裂法を成立させたことにより見送る可能性も出てきた。台湾の政局を冷静に分析していれば、台湾は今すぐ独立しようとはしないことは明らかだが、それだけに反国家分裂法を一方的に成立させるのは理解しがたい。これは中国が外のことが見えていないからである。台湾は歴史を振り返ってみても一度も、中国に入っていないというのが事実である。
  • 日本に対しては反日教育を行っている。中国の歴史の教科書には一度も日露戦争は出てこない。すべては日本の侵略戦争だと教科書に書かれている。日本は中国へのODAを打ち切るべきである。

    ODA問題について

     日本は軍事力を増強している中国にこれ以上援助するべきではない。中国がWTOへ加盟したときから援助をやめるべきであった。

    台湾問題について

     中国は台湾に対する分析が甘い。理解不足。反国家分裂法や領海法は国民の支持が得られていないのにもかかわらず、一方的に通している。

中嶋嶺雄(国際教養大学理事長・学長、国際社会学者) 略歴

 1936年、長野県松本市生まれ。文学士(東京外国語大学〈中国科〉、1960年)、国際学修士(東京大学、1965年)、社会学博士(東京大学、1980年)。1977年、東京外国語大学教授。1995~2001年、東京外国語大学長。1998~2001年、国立大学協会副会長。現在はアジア太平洋大学交流機構(UMAP)国際事務総長、文部科学省中央教育審議会委員(大学院部会長・外国語専門部会主査)、財団法人大学セミナー・ハウス理事長などを兼務。オーストラリア国立大学、パリ政治学院、カリフォルニア大学サンディエゴ校大学院の客員教授を歴任。平成15年度「正論大賞」受賞。

著書は「現代中国論」「中ソ対立と現代」「北京烈烈」(サントリー学芸賞受賞)「中国の悲劇」「国際関係論」「中国・台湾・香港」「21世紀の大学」など多数。