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第25回藤田幸久政経フォーラム特別記念講演概要2004年12月15日


活動報告

2004年12月15日(水)

第25回 藤田幸久政経フォーラム特別記念講演 概要

◎ 演題:「明日の日本を考える」

◎ 講師:前日本銀行総裁、聖学院名誉理事長 速水 優 氏


=== はじめに ===


藤田幸久氏とは信仰上の友人であり、長くおつきあいしている。藤田氏がMRA活動をはじめとする内外でご活躍であることを知り、すばらしいと思っていた。



=== 所感 ===


近年、政治体制に目を向けると、戦後55年体制の下で、単独で政権を担ってきた日本の政権はアメリカ等との交渉の結果、大胆な政策をとれてきたと思う。その後90年代になり、55年体制が崩れ、自民党と社会党が手を組むというような形で奇妙な政権が生まれたが、2大政党制が確立していない中での政権であったので、複数与党という体制で思い切ったことができなかった面もあろう。現在グローバリゼーションが提唱される中、民主党が国際関係でも活躍することが政権獲得にも重要なことであり、これからの民主党国際局長としての藤田氏の余人を以って代え難い役割は重要である。




=== 私の歩み ===


私は1925年、丁度昭和ゼロ年生まれである。また、大学2年、20歳の時に終戦を迎えている。
軍隊に行き復学し大学では左や右やで非常ににぎやかであり、敗戦の結果ハイパーインフレで食べ物も着る物も不足していた中で、一番被害を受けた世代であった。そのような世代、1925年生まれに注目して最近、東京新聞が特集記事の冒頭に私を取り上げた。(東京新聞11.23記事参照)
長兄は召集で陸軍主計将校になったが、病気になり、戦線から白衣で帰国し、亡くなってしまった。海軍技術将校であった次兄も46年に病死。父親も終戦の翌年死亡。インフレの中家族の中でのたった一人の男性となり、残された母親や妹たちの生計をたてるため、間違えのない所に就職しなければならないということになり、昭和22年に卒業し日本銀行に入り、それ以来34年間日本銀行の国際関係の部門に携わり、「金・ドル本位制」の下で円が1ドル360円に決まるところから始まるその後の色々な場面を見てきた。

34年いた最後に日銀で国際担当の理事を務め、その後商社に行き10年余り社長、会長を勤め海外を飛び回り、経済同友会の代表幹事を務めた。その間ミッション系の学校の理事長を務め、教育の問題、特に私立の学校に何が必要かを考えてきた。

1998年日本銀行総裁に就任するように要請があった。

その年、橋本内閣で、昭和17年に作られた日銀中央銀行法が改正され、4月から新法が適用になる時で、3月に前総裁が辞職し私が総裁にという要請であった。任務が果たせるかどうか?と自身でも悩んだ。しかし、中央銀行とは一国の通貨の安定した発行と調整をまかされた機関であり、特別な考え方と技術をもっていなければ果たせない任務である。自らの経験を生かして役目を果たしていくことが神様が私に与えようとしている「コーリング」、職業であると思い任務を全うすることを決意した。

新しい法律は独立性と透明性を明記しており、そのことを頭にいれながら、日本銀行は、日本経済の良心でなければならない。債権者は庶民の方々であり、その方たちの金融資産を無事に守り債務者にもフェアーな金融政策をとり通貨を安定的に発行し、金融システムを安定させるべきである。私は、その考えに基づいた施策をとったつもりである。

新法では、独立性と透明性がはっきり明記されている。新しい法律の下で出きること・出来ないこと。イエス・ノーをはっきり言って中央銀行がやらなければいけない。当時、最早金利は公定歩合0.5%であった。それ以上下げるわけにいかないので、ゼロ金利、その後、量的緩和を行い、現在もその状態は続いている。また、前例のないことであったが、中央銀行が民間の銀行が保有する株を時価で買い取るという思い切った施策を行った。その結果2兆円位が民間銀行に入り、株価も持ち直した。思い切ってこれらの施策を行ったことは良かったと自負している。また後任の福井総裁がうまくこれらの施策を引き継いで良い効果を引き出してくれていると思っている。



=== 最近の経済状況について ===


 本日発表された短期経済見通しでも少し下がっているがかなり良くなってきている。89年バブルがはじけ、政府は、赤字国債を出し公共投資をして補い、96年あたりは一時持ち直したが、土地価格が下降した。従来日本の企業は間接金融で銀行から借金をして仕事をしていくという構造であったが、借金するのに、株の持ち合いをしなければならない。株と土地とが担保になり借金をする。担保に使って価値が上昇すれば良いのだが、90年代に価値が下がり始めた時に、銀行の貸し出しの不健全性が出てきた。従来の、金が借りられたら仕事が発生するという経済ではなくなり、90年代に入り株価や不動産価格も低落し、結果的に金融不安が生み出された。経済を立て直し、金融不安を解消するため、銀行の信用を取り戻さなければならなくなった。89年にベルリンの壁が崩壊し、東西南北が一つのマーケットになり、ひとつの市場で自由競争と市場機能で競争しなければならない、ということになった。それが、グローバリゼーションの本体である。銀行がそれを守れないのでは信用が得られない。必要な統合をしていくにはどうしたら良いか模索してきた。98年から総裁になって5年間後半部分は小泉内閣になり、小泉内閣の「改革なくして成長なし。」の掛け声はあったが、実際の実現は引き伸ばしされ遅遅としてはいるが、ひとつひとつ進みつつあるのは確かだと思っている。

このことを進めていくことが、これからの課題であり、それができなければ日本の経済は立ち直れないと思う。

ベルリンの壁以降、グローバリゼーションが始まり、細川政権(1993年)が構造改革を唱えたが短命に終わりその後は主として公共投資で景気を保ってきたと言える。これは、財政赤字を国債増発でまかなうということである。、このような国は他にない。これ以上財政赤字でやっていくことはできない。民間が新しい需要を見てそれに見合った設備投資を行い、また、製品を輸出していくことが必要で、どうしたら可能になるかと考えてきたわけであるが、幸い過去2年間で、民間の設備投資がはっきりとクリエイティブなディストラクションとなった。民間が新しい設備投資をし、消費者が現在真に欲しているものは何か?海外で売れるものは何か?ということを追求し、製品化していけば、必ず景気は回復する。輸出も伸びてゆく。

IT産業の好調で、2000年秋頃までは景気回復方向がみられたが、年末近くなって米国をはじめとして、ITが在庫超過となっていることが分かり2001年初から、再び景気悪化がみられた。そこで金融面から思い切った緩和政策がとられ、企業の需要開拓の設備投資も増加し、2003年は、1990年以降では一番水準が高い3回目のゆるやかな景気の上昇になっている。特に電気関係、DVD・デジタルカメラ等の販売の上昇が顕著である。本年(2004年)に入って、それらの売り上げが天井をついてやや停滞し、一時のインフレは踊り場と言える状態に入っているのか?このまま下がるのか?といった問題を抱えてはいるが、思ったほど株価は下がっていない。しなしながら依然として踊り場状態にあると判断せざるをえない。これからクリエイティブな設備投資は、製造業だけでなくサービス産業でも必要だ。今何を消費者が欲しているかということを、たとえば書店でも本当に消費者が欲しいと思っている本はどのようなものなのか?という要望を可能にしている書店は、中古本を並べてもよく繁盛している。製造業でも一般消費者や海外で需要に良いものを新しく作っていくことが必要で、それらの施策が伸びていけば良い方向に行くと思っている。

実際、世界の情勢をみても、そんなに景気は悪くはないと認識している。

資料を参照していただきたい。

(1) は消費者物価である。この段階では日本はマイナス0.1であるが、他の国は前年比をあげている。日本はマイナスのままである。

(2) の卸売物価(現在は、「企業物価指数」とよぶ)は、石油価格の上昇もあり前年比2.0となっている。

(3) の景気と物価の関係であるが、景気が良くなってもただちに物価が上がるわけではなく2年くらい遅れて物価が上がるものだ。「成長なくしてデフレからの脱却はない」と国会でも言ってきたが、じわじわ変化していくのではないかと思っている。

2枚目の表は為替相場と経常収支の表である。

70年~80年にかけて日本円は強く、弱い米ドルや英ポンド等を支援するためにドイツなどと一緒に資金援助をしたが、日本はアメリカをはじめとする海外に大きく融資をしたが、固定相場が維持できないということで71年ニクソンショックがおこり、石油ショックがおきてその後30年の間に円は3倍購買力が強くなった。通貨の対外購買力が増えていった。このような国は他に例をみない。一貫して通貨への信認が強くなっていくことは経済が強くなることであると信じている。円の購買力が強くなっていくということは重要なことである。内外の多くの人がたくさん円を持ち使うことが必要である。海外でも日本円がもっと使われるようにすべきである。これまでの米ドル本位の輸出入等の決済をもっと日本決済にかえていくことが望ましいと思う。

銀行は銀行で為替を使えば手数料がもうけられるわけだが、もっと円が信用され多く使われるようにならなければいけない。信用を維持することができないと経済の発展は見込めない。

次の項目である経常収支は80年以降黒字が続いている。最近では貿易とサービスのほかに所得収支が入っている。中小企業でも海外で投資し、得た利益を本社に送りその受け取りが経常収支としてカウントされ所得収支としてはいってくる。その結果3~4%の経常収支の黒字は自然に入ってくる。通貨も強くなってくるのが当然ということになる。

アメリカは5%を超える経常収支の赤字と、財政の赤字を加えると10%を超える双子の赤字を抱えている。

 双子の赤字がある限りドルは信頼できないのではないかと思う。今後どのようにこの状態を立て直していくのかアメリカの動向に注目したい。
 その結果が最後の日米の対外純資産残高である。

アメリカは2.5兆ドル債務超過である。日本は資産超過が1.7兆ドルである。はるかに上回っているだけ日本がアメリカより経済的には信頼にたるべき立場であることを明確にしている。

3枚目の個人金融資産残高であるが、日本の個人の金融資産が大きな伸びを示している。豊かになってきていることは確かである。


 日米家計部門の金融資産の内訳であるが、日本の特色としては現預金が55%をしめ、米国の13%を大きく上回っている。この現金による預金が運用にまわされることにならなければ経済の上向きの発展は起きないのではないかと思う。

もちろん運用は自己責任であるが、自らが考えて責任を持ち資産を銀行預金以外にも、国債・債券・株式・その他、運用を多様化していくことが必要ではないかと思う。

そのためには各種の金融市場をオープンにして、金融機関・証券会社等をはじめ、個人の運用もしやすいようにしていかなければならないかと思う。


=== これからの課題 ===


グローバリゼーションが世界の課題になる中で日本には非常に規制が多い。世界が一つの市場となり競争しようとする時に、多くの規制があり、行おうとすることが妨げられるのであれば、日本は置いてきぼりになってしまう。グローバリゼーションは、東西南北の国々が一つの市場原理で自由競争で勝てるかどうかということにかかっている。中国も今の状況で同じようなことをやっていくのでは、いくら力があってもグローバリゼーションに入っていかなければ世界についていけないのではないかと思う。

もう一つ大きな問題は環境問題である。

最近デンマークが風の力で電気を発明するという世界初の試みに成功した。環境税を取って創ったということであるが、日本では環境税でいくか、政府の規制でいくかで議論が分かれている。発電の問題、太陽熱の問題、フロンの問題、CO2をどのように削減していくかと言う問題がある。これらの問題については、一国だけではなく各国全体が話し合っていかなければならない。そのためには必要に応じ、国際機関がリードしてまとめていかなければならない。グローバルコンパクトと名付けられた計画の下に国連が国際的に発展している企業と直接サインをしている。現在1800社が締結している。日本は18社にとどまっている。このような参加も推進されなければならないと思う。また、各企業は、福祉・労働・環境に対して社会的責任を自らに課しそれぞれの企業で基準を作り実行していくという姿勢を示していかなければ、世界の一流企業にはならないと思う。

終わりに最後の表は、教育の問題である。

信仰にもかかわるが、サミュエル・ハンチントン著の「分断されるアメリカ」にある表で、信仰心の度合いを示している。アメリカで信仰をもった人の割合はかつて80%位の割合であったが現在は65%に落ち込んでいる。ヒスパニック系の人口が増加したことにより、信仰を持たない人たちが増加してきたと思われる。

日本は18%の割合で、内訳としては多くが仏教・神道の信者であり、キリスト教信者は1%位の割合だと思う。信仰心を持たないということは自らの信念をもたないことではないか?それでやっていけるのかと危惧している。学校はそれぞれの個性を伸ばした教育をしてほしいと思ってこの表を挙げた。

 ご清聴に感謝する。