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日銀金融政策決定会合(1月23、24日)要旨2012年02月20日
公表時間 2 月17 日(金)8時50分
2012.2.17
日本銀行
(2012年1月23、24日開催分)
(開催要領)
1.開催日時:2012 年1 月23 日(14:00~ 16:14) 1 月24 日( 9:00~ 12:26)
2 . 場 所:日本銀行本店
3.出席委員:
議長 白川方明 ( 総 裁)
山口廣秀 (副総裁)
西村淸彦 ( 〃 )
中村清次 (審議委員)
亀崎英敏 ( 〃 )
宮尾龍蔵 ( 〃 )
森本宜久 ( 〃 )
白井さゆり ( 〃 )
石田浩二 ( 〃 )
4.政府からの出席者:
財務省 佐藤慎一 大臣官房総括審議官(23 日)
藤田幸久 財務副大臣(24 日)
内閣府 松山健士 内閣府審議官(23 日)
大串博志 内閣府大臣政務官(24 日)
( 執行部からの報告者)
理事 山本謙三
理事 中曽 宏
理事 雨宮正佳
理事 木下信行
企画局長 門間一夫
企画局政策企画課長 神山一成
金融市場局長 青木周平
調査統計局長 前田栄治
調査統計局経済調査課長 関根敏隆
国際局長 大野英昭
( 事務局)
政策委員会室長 飯野裕二
政策委員会室企画役 橘 朋廣
企画局企画役 峯岸 誠
企画局企画役 川本卓司
1.最近の金融市場調節の運営実績
金融市場調節は、前回会合(2011 年12 月20、21 日)で決定され
た方針1のもとで、金融市場における需要を十分満たす潤沢な資金供給を行い、金融市場の安定確保に万全を期した。こうした中、無担保コールレート( オーバーナイト物) は、0.07 % 台前半から0.09%の間で推移した。
2.金融・為替市場動向
短期金融市場では、日本銀行による潤沢な資金供給のもとで、強
い余剰感が続いており、金利は安定的に推移している。G C レポ
レートは、総じて0.1%程度で推移している。ターム物金利をみる
と、短国レートは、長めのゾーンを含め、0.1% 程度で安定的に推
移している。長めのターム物の銀行間取引金利は、横ばい圏内の動
きとなっている。
米ドル資金の調達環境をみると、米ドル資金供給オペへの旺盛な
応札から、金融機関のドル資金ニーズが徐々に充足されてきている
ことに加え、欧州中央銀行(ECB )による3年物の無制限資金供
給オペが欧州系金融機関の当面の資金繰り不安の後退につながって
いることなどから、為替スワップ市場のドル調達プレミアム(ドル
転コストの対ドルLIBORスプレッド)は、年明け以降、明確に
縮小している。
長期金利は、銀行勢を中心とした底堅い需要を背景に、低位横ば
い圏内での動きとなっており、足もとでは0.9%台半ばで推移して
いる。株価は、米国株価が堅調に推移していることを好感し、底堅
く推移しており、日経平均株価は足もとでは8千円台後半となって
いる。為替市場をみると、円の対米ドル相場は、このところ76~ 77
円台を中心とする狭いレンジでの動きが続いている。ユーロは、E
CBの金融緩和を受けてユーロ圏金利が低下基調を辿るもとで、幅
広い通貨に対して弱含んでおり、円の対ユーロ相場は、一時98 円
を割り込んだ。
3.海外金融経済情勢
世界経済は、減速している。
米国経済は、回復を続けているが、そのテンポは緩やかなものに
とどまっている。このところ一部に底堅い動きもみられているが、
バランスシートの調整圧力は引き続き経済の重石となっている。そ
うしたもとで、個人消費は増加しているが、その回復ペースは、基
調として緩やかなものにとどまっている。住宅投資については、住
宅価格が軟調に推移する中、なお低水準で推移している。一方、輸
出や設備投資は緩やかに増加している。こうしたもとで、生産は増
加基調を維持している。物価面では、財市場や労働市場の緩和的な
需給環境が引き続き物価押し下げ圧力として作用している中、既往
のエネルギー価格の下落を受けて、総合ベースの消費者物価の前年
比は、プラス幅が幾分縮小している。一方、コアベースの消費者物
価の前年比は、家賃・帰属家賃が引き続き緩やかに上昇しているこ
とから、プラス幅が幾分拡大している。
欧州経済をみると、ユーロエリア経済は、停滞色を強めている。
輸出が海外経済の減速を受けて伸び悩む中、民間設備投資が減速し、個人消費も概ね横ばいとなっている。欧州ソブリン問題の深刻化か
ら、家計や企業のマインドは悪化した状態が続いている。こうした
もとで、生産は減少している。物価面をみると、総合ベースの消費
者物価の前年比は、高めの水準で推移しているが、既往の国際商品
市況下落の影響から、幾分低下してきている。この間、英国経済は、
横ばい圏内の動きとなっている。
アジア経済をみると、中国経済は、全体として高成長を続けてい
る。輸出が減速し、生産の増加ペースが幾分鈍化している一方、個
人消費や固定資産投資は高い伸びを続けている。インド経済は、既
往の金融引き締めの影響から、減速している。NIEs、ASEA
N経済は、幾分減速している。NI Es、ASEANの内需は個人
消費を中心になお底堅く推移しているが、輸出や生産は、先進国経
済が減速する中、タイの洪水の影響もあって、減少している。物価
面をみると、これらの国・地域の多くでは、労働需給の逼迫を受け
た賃金上昇率の高まりなどを背景に、コアベースのインフレ率はな
お高めで推移している。一方、総合ベースでは、生鮮食料品の高騰
一服などから、伸び率が緩やかに縮小している。
海外の金融資本市場をみると、資金市場では短期のドル調達金利
が低下するなど、幾分改善する動きもみられるものの、ギリシャの
債務削減交渉の難航などを背景に、欧州ソブリン問題に対する懸念は根強く、緊張度の高い状態が続いている。こうした中、米長期金
利は、低水準で横ばい圏内の動きとなっており、ドイツの長期金利
は緩やかに低下している。欧州各国国債の対独スプレッドは、拡
大・縮小を経て、足もとにかけては、ポルトガル等で拡大している。
米欧のクレジット市場では、社債の対国債スプレッドは、高めの水
準で横ばいの動きとなっている。他方、欧州系金融機関の資金調達
環境をみると、3年物オペを含むE CBによる大量の資金供給が、
欧州系金融機関の資金繰りに一定の安心感をもたらす中で、ユーロ
のターム物金利の対OISスプレッドは、振れを伴いつつ幾分低下
している。この間、米国株価は上昇しており、これに連れる形で欧
州の株価も上昇している。新興国の金融資本市場をみると、多くの
国で株価は上昇し、通貨も幾分上昇している。
4.国内金融経済情勢
(1) 実体経済
輸出や生産は、海外経済の減速や円高に加えて、タイの洪水の影
響も残るもとで、横ばい圏内の動きとなっている。先行きについて
は、当面、横ばい圏内の動きを続けるとみられるが、その後、海外
経済の成長率が高まることなどから、緩やかに増加していくと考え
られる。
公共投資は、下げ止まっている。先行きについては、被災した社
会資本の復旧などから、徐々に増加していくとみられる。
設備投資は、被災した設備の修復もあって、緩やかな増加基調に
ある。先行きについては、当面、海外経済減速の影響などを受けつ
つも、被災した設備の修復・建替えや耐震・事業継続体制の強化の
動きなどもあって、基調的には緩やかな増加を続けると予想される。
雇用・所得環境は、改善の動きがみられるものの、厳しい状態が
続いている。
個人消費は、底堅く推移している。先行きは、雇用環境が徐々に
改善に向かうもとで、引き続き底堅く推移するとみられる。
住宅投資は、持ち直し傾向にある。先行きは、被災住宅の再建も
あって、徐々に増加していくと予想される。
物価面をみると、国際商品市況は、昨年の春頃をピークに下落傾
向を辿ったあと、足もとでは横ばい圏内の動きとなっている。国内
企業物価を3か月前比でみると、既往の国際商品市況の下落などか
ら、弱含んでいる。先行きは、国際商品市況の動きを反映して、当
面、横ばい圏内で推移するとみられる。消費者物価( 除く生鮮食品) の前年比は、概ねゼロ% となっている。先行きは、当面、ゼロ%近傍で推移するとみられる。
(2) 金融環境
わが国の金融環境は、緩和の動きが続いている。
コールレートがきわめて低い水準で推移する中、企業の資金調達
コストは緩やかに低下している。実体経済活動や物価との関係でみ
ると、低金利の緩和効果はなお減殺されている面がある。資金供給
面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、改善傾向が続いてい
る。CP市場では、良好な発行環境が続いている。社債市場の発行
環境についても、総じてみれば、良好な状態が続いている。資金需
要面をみると、運転資金や企業買収関連を中心に、増加の動きがみ
られている。以上のような環境のもとで、企業の資金調達動向をみ
ると、銀行貸出の前年比は、小幅の増加となっている。また、社債
の残高は概ね前年並みとなる一方、CPの残高は引き続き前年を上
回っている。こうした中、企業の資金繰りをみると、総じてみれば、
改善した状態にある。この間、マネーストックは、前年比3%程度
の伸びとなっている。
る大量の資金供給や6中央銀行によるドル資金供給面での協調対応
によって幾分改善する動きもみられているが、欧州ソブリン問題に
対する懸念は根強く、全体として緊張度の高い状態が続いていると
の見解を共有した。多くの委員は、ポルトガルの国債利回りが上昇
しているほか、スペイン、イタリア等の国債利回りについても年明
け以降の順調な国債入札もあって中短期ゾーンを中心に低下してい
るものの、依然として水準は高いとの認識を示した。欧州ソブリン
問題に対する懸念が根強い背景として、多くの委員は、①財政懸念
国における財政再建の進捗には、なお時間を要するとみられている
こと、②ギリシャの債務問題への対応において民間投資家の負担が
大きくなっていること、③欧州金融安定基金(EFSF)の資金基
盤の拡充において具体的な成案が得られていないこと、等を挙げた。
何人かの委員は、ECBや6中央銀行による流動性供給面での対応
は、「時間を買う」政策であり、その間にソルベンシー( 支払能
力)の問題の解決に向けてしっかり取り組んでいく必要があると述べた。
先行きについて、委員は、当面、市場の緊張状態が続く可能性が
高いとの認識を共有した。多くの委員は、財政懸念国の国債や欧州
系金融機関の社債のリファイナンスが本格化する春頃にかけて、市
場の緊張が高まりやすく、とくに注意が必要であると述べた。また、
多くの委員は、6月末までに9%の自己資本比率の達成が求められ
ている中で、欧州系金融機関による資産圧縮の動きが加速する可能
性があることに懸念を示した。さらに、一人の委員は、ギリシャで
は、経済がマイナス成長を続けるもとで、財政再建を進めていくこ
とが難しくなっており、仮に財政再建の動きが頓挫すれば、欧州連
合(EU)、国際通貨基金(IMF )等の支援体制が崩れるリスク
があると指摘した。
海外経済について、委員は、欧州ソブリン問題を背景とした国際
金融資本市場の動揺や、新興国における既往の金融引き締めの影響
などから、減速しているとの認識で一致した。先行きについて、委
員は、当面、ユーロエリア経済を中心に減速が続くものの、その後
は、新興国・資源国に牽引される形で、成長率は徐々に高まってい
くとの見方を共有した。
ユーロエリア経済について、委員は、これまで堅調を維持してき
たドイツも含め、全体として停滞色が強まっているとの見方で一致
した。ドイツでも停滞色がみられている背景として、多くの委員は、
企業や家計のマインド悪化や金融機関の与信スタンス慎重化を通じ
て、欧州ソブリン問題の影響が波及してきている点を挙げた。一方、
ドイツ経済について、ある委員は、雇用環境の改善傾向が続くなど、
他の欧州諸国と比べれば、なお堅調な面もあると付け加えた。先行
きについて、委員は、緊縮財政の継続や欧州系金融機関による資産
圧縮の動きなどを背景に、当面、停滞色の強い状態が続くとの認識
を共有した。そのうえで、委員は、欧州ソブリン問題の展開次第で
は、金融システムの不安定化などを通じて、欧州経済が大きく下振
れる可能性があり、欧州経済の更なる落ち込みは、世界的な景気後
退の引き金となり得るため、今後とも注意深くみていく必要がある
との認識を共有した。
米国経済の現状について、委員は、回復を続けているが、そのテ
ンポは緩やかなものにとどまっているとの見方を共有した。そのう
えで、このところ底堅い動きがみられている点を巡って様々な言及
があった。何人かの委員は、良好な企業収益を背景に設備投資が増
加を続けているほか、雇用環境が緩やかに改善するもとで個人消費
にも底堅い動きがみられるなど、一頃の景気に対する悲観的な見方は後退していると述べた。このうちの一人の委員は、銀行貸出の前
年比は商工業向けだけでなく、個人向けでもプラスとなっており、
最近の底堅い経済指標の動きと整合的であると付け加えた。これに
対し、何人かの委員は、このところ一部に底堅い動きもみられてい
るとしても、バランスシートの調整圧力は引き続き経済の重石と
なっており、個人消費や住宅投資の伸びは緩やかなものにとどまっ
ていると指摘した。このうちの一人の委員は、最近の経済指標が底
堅い動きを示している背景には、季節調整の歪みや暖冬の特殊要因
により嵩上げされている面もあるので、注意してみていく必要があ
ると指摘した。ある委員は、企業業績の好調やそれを受けた米国株
価の上昇を説明する要因として、①コスト削減の進捗、②新興国ビ
ジネスの高い成長、③既往のドル安による輸出採算の改善、④金利
低下を受けた金融機関収益の持ち直しの4つがあり、今後の持続性
は②新興国経済の高い成長にかかっている面が大きいとの見方を示
した。
米国経済の先行きについて、委員は、以上の議論を踏まえつつ、
緩やかなペースで回復を続けるとの見方で一致した。多くの委員は、
プラス材料として、緩和的な金融環境、雇用の増加、インフレ率の
低下などを、マイナス材料として、雇用の二極化、住宅価格の軟調、
財政支出削減の強まりなどを挙げた。何人かの委員は、リーマン・
ショック以降の回復過程で、楽観と悲観を短期間に繰り返してきて
おり、今後も、企業部門の相対的な好調と、家計部門のバランス
シート調整圧力の重石が相克する中で、先行きの回復経路を巡る不
確実性は高いと述べた。
新興国・資源国経済について、委員は、既往の物価上昇による実
質購買力低下や金融引き締めに加え、欧州経済の減速に伴う輸出減
少の影響などから、全体として幾分減速しているとの見方で一致し
た。欧州経済の減速の影響について、複数の委員は、地理的に近い
中東欧だけでなく、N I E s・A S E A N などでも、貿易面を通じ
た悪影響が顕在化してきている点に懸念を示した。欧州系金融機関
による資産圧縮の影響について、何人かの委員は、市場性資産の売
却は相応に進んでいるが、貸出資産の削減は進んでいないことから、
今のところ新興国・資源国経済への影響は大きなものとなっていな
いとの見方を示した。先行きについて、大方の委員は、都市化の進
展などに支えられ、成長ポテンシャルは引き続き高いとの認識を示
したうえで、インフレ率は依然高水準ながら徐々に低下してきてお
り、こうした傾向が続けば、家計の実質購買力の回復等を通じて、
再び成長率が高まっていくとの見解を示した。何人かの委員は、中国などインフレ率が低下しつつある国では、ソフトランディングに
向け金融緩和の余地も拡大していると考えられる一方、ブラジルや
インドのように、インフレが鎮静化しておらず金融政策の舵取りが
難しい国もなお少なくないと指摘した。これらの委員は、景気・物
価いずれの面でも、国・地域間でばらつきが拡大しており、一括り
で評価することは難しくなってきているとの認識を示した。中国経
済の先行きを巡るリスク要因として、ある委員は、不動産価格の下
落が中小企業向け貸出に及ぼし得る負の影響を注視していると述べ
た。
以上の海外の金融経済情勢を踏まえて、わが国の経済情勢に関す
る議論が行われた。
景気の現状について、委員は、海外経済の減速や円高の影響など
から、横ばい圏内の動きとなっているとの見方で一致した。輸出や
生産について、委員は、海外経済の減速や円高に加えて、タイの洪
水の影響も残るもとで、横ばい圏内の動きとなっているとの見方を
共有した。設備投資について、委員は、被災した設備の修復もあっ
て、緩やかな増加基調にあるとの認識で一致した。個人消費につい
て、委員は、サービス消費を含め底堅く推移しているとの認識を共
有した。委員は、住宅投資は持ち直し傾向にあり、公共投資も下げ
止まっているとの認識で一致した。個人消費を中心に内需が堅調に
推移している背景として、何人かの委員は、震災以降、一旦抑制さ
れていた需要が顕在化していることに加えて、円高のプラス面が内
需に対して薄く広く及んできている可能性があると指摘した。複数
の委員は、有効求人倍率や毎月勤労統計の常用労働者数など雇用環境に改善の動きがみられるほか、消費者コンフィデンスも総じて底
堅く推移している点に注目しているとコメントした。
景気の先行きについて、委員は、当面、横ばい圏内の動きを続け
るとみられるが、その後は、新興国・資源国に牽引される形で海外
経済の成長率が再び高まることや、震災復興関連の需要が徐々に顕
在化していくことなどから、緩やかな回復経路に復していくとの見
方を共有した。震災復興関連の需要について、何人かの委員は、消
費関連を中心としたペントアップ需要、被災地の生活再建支出、被
災した設備の修復といった動きは既にみられており、規模の大きい
2011 年度第3次補正予算の執行が進めば、押し上げ効果はより明確
なものとなるとの見方を示した。
消費者物価(除く生鮮食品)の前年比について、委員は、概ねゼ
ロ%となっており、先行きは、当面、ゼロ%近傍で推移するとの見
方で一致した。何人かの委員は、原油が地政学リスクを背景にこの
ところやや強含んでいるものの、これまでのところ物価情勢に大き
な変化は窺われないと付け加えた。
委員は、国際金融資本市場の緊張度は引き続き高いものの、わが
国の金融環境は、緩和の動きが続いているとの見方で一致した。
短期金融市場について、委員は、日本銀行が強力な金融緩和を推
進していることや、金融機関のバランスシートの健全性が保たれて
いることなどを背景に、きわめて安定しているとの見方で一致した。
委員は、CP市場では良好な発行環境が続いており、社債市場の発
行環境も総じてみれば良好な状態が続いているとの認識を共有した。
委員は、企業の資金調達コストは緩やかに低下しており、資金のア
ベイラビリティーの面でも改善傾向が続いているとの見方を共有し
た。何人かの委員は、銀行貸出の前年比が、電力向けや企業買収関
連の資金需要を背景に、小幅のプラスとなっている点に注目してい
るとコメントした。
何人かの委員は、欧州ソブリン問題の長期化や各国の金融緩和等
を背景に、対ユーロを中心に円高圧力が根強く、これがわが国の株
価や企業マインド、ひいては景気の下押し圧力につながらないかど
うか、注視していく必要があると述べた。複数の委員は、家計や企
業の短期的なインフレ予想がこのところ幾分低下していることに言
及した。このうちの一人の委員は、こうした動きは、生鮮食品やそ
の他購入頻度の高い品目の物価上昇率の動向に影響されていると考
えられると述べた。別の一人の委員は、短期的なインフレ予想の低
下により、インフレ率が長期のアンカーに収束していく速度が遅く
なる可能性があると付け加えた。複数の委員は、各種のプルーデン
ス規制や安全資産選好の強まりが金融機関の国債投資を積極化させ
ていることや、長期金利上昇が金融システムに及ぼす影響などにつ
いて理解を深めておく必要があると指摘した。別の一人の委員は、
緩和的な金融環境が長期間続くもとで、金融セクターに意図せざる
不均衡が蓄積していくことはないかどうか、個別金融機関の経営状
況も含め丹念に点検していく必要があると述べた。
3.中間評価
以上のような情勢認識を踏まえ、委員は、2011 年度の成長率は、
昨年10 月の展望レポートの見通しと比べると、下振れるとの見方
で一致した。見通し下振れについて、委員は、海外経済の成長率が、
欧州ソブリン問題の影響などから当初の想定以上に減速していると
いう実体的な要因に加えて、過去の実績値の改定に伴い2011 年度
への発射台(いわゆる統計上の「ゲタ」)が低下したという技術的
な要因も大きいとの認識を共有した。委員は、わが国経済が緩やか
な回復経路に復していくという展望レポートのシナリオは、回復の
時期が2012 年度前半へと若干後ずれしているものの、維持されて
おり、2012 年度および2013 年度の成長率については概ね見通しに
沿って推移するとの認識で一致した。そのうえで、一人の委員は、
概ね見通しの範囲内ではあるが、為替円高や海外経済の減速、株価
低迷等の影響から、輸出と設備投資が下振れることを織り込み、
2012 年度と2013 年度の成長率見通しについて、幾分下方修正を
行ったと付け加えた。
物価面では、委員は、国内企業物価、消費者物価( 除く生鮮食
品)とも、概ね見通しに沿って推移するとの見解で一致した。国内
企業物価の先行きについて、委員は、東京電力による企業向け電力
料金の値上げが2012 年度の上振れ要因として作用するが、これは
原油以外の国際商品市況の反落の影響により概ね相殺されるとの考
え方を共有した。2012 年度の消費者物価が見通しに沿って推移する
と考える背景について、ある委員は、想定する原油価格の上方修正
等という上振れ要因と、需給ギャップの改善ペース鈍化という下振
れ要因が、概ね相殺し合う結果であると述べた。消費者物価の先行
きについて、一人の委員は、基本的なシナリオは維持されており概
ね見通しの範囲内ではあるものの、インフレ予想の弱含みの影響等
から、幾分下方修正を行ったと述べた。何人かの委員は、「中長期
的な物価安定の理解」に基づいて物価の安定が展望できる情勢に
なったと判断されるには、なお時間を要するものの、わが国経済は、
やや長い目でみれば、物価安定のもとでの持続的成長経路に向けて
着実に歩みを進めているとの認識を示した。
先行きの見通しを巡るリスク要因について、委員は、内外経済を
巡る不確実性は大きく、とりわけ、欧州ソブリン問題の影響は、引
き続き最大のリスク要因であるとの見解で一致した。欧州ソブリン
問題に関連して、国際金融資本市場の緊張が高まり得る具体的な
きっかけとして、多くの委員は、① 春頃にかけて集中している財政
懸念国の国債や欧州系金融機関の社債のリファイナンスの成否、②
ギリシャの債務削減交渉と第2次支援策の帰趨、③欧州系銀行の自
己資本比率引き上げに伴う資産圧縮の動き、④欧州国債の更なる格
下げの可能性等を挙げた。委員は、これらのイベント・リスクが顕
現化した場合には、国際金融資本市場を介した影響を通じて、世界
経済ひいては日本経済の下振れをもたらす可能性には注意が必要であるとの認識を共有した。米国経済を巡る不確実性について、多く
の委員は、下振れリスクは一頃に比べ低下しているものの、バラン
スシート調整圧力や財政面からの景気下押し圧力、さらには欧州ソ
ブリン問題の影響の波及に、引き続き注意していく必要があると指
摘した。新興国・資源国を巡るリスクについて、委員は、このとこ
ろインフレ率が低下してきている中国を含め、物価安定と成長を両
立する形で経済がソフトランディングできるかどうか、なお不透明
感が高い状況が続いているとの認識を共有した。多くの委員は、欧
州系金融機関による資産圧縮のペースが加速した場合、新興国・資
源国経済への影響は、アジア向けを含め大きなものとなってくるこ
とが避けられないと述べた。複数の委員は、欧州ソブリン問題の影
響としては、投資家のリスク回避姿勢の高まりが新興国資本市場か
らの急激な資金流出につながるリスクについても意識しておく必要
があると指摘した。国内固有のリスク要因として、何人かの委員は、
①原発再稼働の時期を巡る電力供給の不確実性や、②復興関連予算の執行の遅れなどを挙げた。物価面のリスク要因として、委員は、国際商品市況の先行きに関
する不確実性が大きいとの見方で一致した。原油価格については、
イラン情勢を巡る地政学リスクが意識され、このところやや強含ん
で推移しているが、仮にイラン情勢が緊迫化した場合、原油価格の
大幅上昇等を通じて、わが国を含め、世界経済に大きな影響を与え
得るだけに、今後の展開を注意深く見ていく必要があるとの認識を
共有した。複数の委員は、消費者物価がプラス圏で定着するように
なるには時間がかかると予想されることを踏まえると、家計や企業
が物価は中長期的にも上昇しにくいという予想を強めていくことに
より実際の物価が下振れる可能性に、注意する必要があるとの見方
を示した。
次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、委員は、
「無担保コールレート( オーバーナイト物) を、0 ~ 0 .1 % 程度
で推移するよう促す」という現在の方針を維持することが適当であ
るとの見解で一致した。
当面の金融政策運営について、委員は、包括的な金融緩和政策を
通じた強力な金融緩和の推進、さらには、金融市場の安定確保や成
長基盤強化の支援を通じて、日本経済がデフレから脱却し、物価安
定のもとでの持続的成長経路に復帰するよう、中央銀行としての貢献を粘り強く続けていく必要があるとの認識を共有した。何人かの
委員は、包括的な金融緩和政策が強力な金融緩和効果を発揮してき
た中で、金融面を通じた欧州ソブリン問題の影響波及は、これまで
のところ遮断されているとの見解を示した。何人かの委員は、欧州
ソブリン問題が国際金融資本市場や世界経済に深刻なショックをも
たらし、その影響がわが国の金融システムや金融環境に及ぶリスク
も念頭に置いて、金融システム面の措置を含め、中央銀行として十
分に備えを固めておくことが重要と述べた。一人の委員は、基金の
増額等を通じて金融緩和を一段と強化する必要性と、非伝統的手段
の持つリスクやコストとを、慎重に比較考量しながら、今後の対応
を見極めていく必要があると述べた。
政策金利を巡る時間軸について、委員は、「中長期的な物価安定
の理解」に基づき、物価の安定が展望できる情勢になったと判断す
るまで、実質ゼロ金利政策を継続していくとの方針を、これまで以
上に粘り強く対外的に説明していくことがきわめて重要との認識を
共有した。何人かの委員は、こうした時間軸の示し方は、現下の日
本経済の情勢等を踏まえると、金融政策の透明性や有効性の観点か
ら適切であるが、米国FRBがコミュニケーション政策を見直して
いることもあり、情報発信のあり方については不断に点検を続けて
いくことが重要であると付け加えた。このうちの一人の委員は、情
報発信に当たっては、時間軸を通じた景気刺激効果は、景気回復が
進むにつれて徐々に強まっていく性格のものであることを、しっか
りと説明していく必要があると述べた。
資産買入等の基金について、委員は、金融資産の買入れ等を着実
に進め、その効果の波及を確認していくことが適当との認識を共有
した。何人かの委員は、このところ、社債等買入れや国庫短期証券
買入れにおいて札割れが生じ、6か月物の固定金利オペの応札倍率
が低下していることは、強力な金融緩和が市場に浸透していること
の一つの表れであるとの見方を示した。このうちの一人の委員は、
金融市場の状況次第では、引き続き札割れが生じ得るとの見方を示
したうえで、今後もオファーを地道に継続し、市場の安心感を維持
していくことが重要と指摘した。別の一人の委員は、金融緩和を強
化するために、基金を導入した以上、基金の積み上げの期限が本年
末であることを念頭に置いて、買入れが実現できるよう一段と努力
する必要があると述べた。一人の委員は、J-REIT(不動産投
資信託)の価格はこのところ投資家のリスク回避の動きなどから軟
調に推移しているものの、基金によるJ-REITの買入れは、引
き続き市場に一定の安心感をもたらしていると考えておいて良いのではないかとの認識を示した。
11 月下旬に決定した米ドル資金供給オペレーションの適用金利引
き下げについて、多くの委員は、金融機関の旺盛な応札がみられる
もとで、為替スワップ市場等を通じたドル調達金利は年初以降、低
下しており、相応の効果を発揮してきているとの見方を改めて示し
た。
成長基盤強化を支援するための資金供給について、複数の委員は、
特則分の貸付額は大きくないものの、「呼び水」としての効果は発
揮されているとの認識を示したうえで、日本銀行としては、引き続
き金融機関によるABLへの前向きな取り組みを後押ししていく必
要があると述べた。
財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。
- 本日、平成 23 年度第4次補正予算および平成24 年度予算を国
会に提出した。今後、速やかな成立に向けて、全力で取り組ん
でいきたい。 - 1 月 6 日 、 政 府 ・ 与 党 社 会 保 障改革本部で、社会保障・税一体改革素案を決定した。今後、年度内に消費税法の改正を含む、税制抜本改革の関連法案を国会に提出し、社会保障の安定財源確保と財政健全化の同時達成を目指していく。財政健全化の重要性については、政府・日本銀行で共有されていると考える。
- 同 素 案 に は 「 デ フ レ 脱 却 に 向 けて日本銀行と一体となって取り組んできた。引き続き、景気の下振れの回避に万全を期すため適切な経済財政措置を講ずるとともに、デフレ脱却と経済活性化に向けた更なる方策を講じ、日本経済の再生に取り組む」とあり、今後の経済運営には万全を期す必要がある。
- 本日は、中間評価について議論があった。この中では、2013 年
度まで消費者物価の前年比上昇率は小幅にとどまり、中心は
1 % 程度とする「中長期的な物価安定の理解」よりも低い状況
が続くと見込まれている。さらに、欧州の政府債務問題が欧州
の金融システムや国際金融資本市場に影響を及ぼすことにより、
海外経済が下振れし、わが国景気を下振れさせる重大なリスク
となっている。日本銀行にも、こうした厳しい状況について認
識を共有し、政府との密接な情報交換・連携のもと、デフレ脱
却や景気下振れの回避に向けて、適切かつ果断な金融政策運営に取り組んで頂くようお願いしたい。
また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。 - わ が 国 の 景 気 は 、 緩 や か に 持 ち直しており、先行きもこの傾向は続くと期待される。平成24 年度経済見通しでは、来年度の実質成長率は+ 2.2% 程度、名目では+ 2.0% 程度と見込んでいる。
欧州政府債務危機の影響により、海外景気が下振れし、わが国
の景気が下押しされるリスクには十分な警戒が必要である。 - 2013 年度の消費者物価の前年比について、政策委員見通しの中央値をみると、今回の中間評価では+ 0.5% と、「中長期的な物価安定の理解」に比べ低い。社会保障・税一体改革を円滑に推進するためにも、デフレからの脱却に、政府と日本銀行が一丸となって、今まで以上に断固とした姿勢で取り組むべきである。
- デ フ レ 脱 却 の た め に は 、 需 給 ギャップ縮小に向けた努力が必要である。政府は、「円高への総合的対応策」および第3 次、第4 次補正予算を迅速かつ着実に実行する。また、わが国の潜在成長率を高め、民間部門の投資意欲を引き出す観点から、「日本再生の基本戦略」の具体化を通じ成長力の強化に取り組む。
- 政 府 と 日 本 銀 行 は 、 一 体 と な って、速やかに安定的な物価上昇を実現することを目指して取り組んでいくことが極めて重要である。1月17 日には野田総理と白川総裁の会談が開催され、認識の共有が図られるよう、今後もこれを定期的に開催していくことが合意された。日本銀行には、政府のデフレ脱却と経済活性化に向けた取組みと歩調を合わせ、金融政策面からの最大限の努力をお願いしたい。デフレ脱却に向け、「中長期的な物価安定の理解」の中心値1 % 程度を早期に実現するための方策や、市場とのコミュニケーションの深化を含め、果断な取組みを期待する。
以上の議論を踏まえ、委員は、当面の金融市場調節方針について、
「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0~0.1%程度
で推移するよう促す」という現在の金融市場調節方針を維持するこ
とが適当である、との考え方を共有した。
議長からは、このような見解を取りまとめる形で、以下の議案が
提出され、採決に付された。
1.次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。
記
無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0~0.1%程度で推移するよう促す。
2.対外公表文は別途決定すること。
採決の結果
賛成:白川委員、山口委員、西村委員、中村委員、亀崎委員、
宮尾委員、森本委員、白井委員、石田委員
反対:なし
対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が検討さ
れ、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。
議事要旨(2011 年12 月20、21 日開催分)が全員一致で承認され、
1月27 日に公表することとされた。
別紙1
2012年1月24日
日本銀行
- 1.日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定
会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致(注1))。
無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0~0.1%程度で推移するよう促す。 - わが国の経済は、海外経済の減速や円高の影響などから、横ばい圏内の動きと
なっている。すなわち、国内需要をみると、設備投資は緩やかな増加基調にあるほ
か、個人消費についても底堅く推移している。一方、輸出や生産は、海外経済の減
速や円高に加えて、タイの洪水の影響も残るもとで、横ばい圏内の動きとなってい
る。この間、国際金融資本市場の緊張度は引き続き高いものの、わが国の金融環境
は、緩和の動きが続いている。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比
は、概ねゼロ%となっている。 - 先行きのわが国経済は、当面、横ばい圏内の動きを続けるとみられるが、その後は、新興国・資源国に牽引される形で海外経済の成長率が再び高まることや、震災復興関連の需要が徐々に顕在化していくことなどから、緩やかな回復経路に復していくと考えられる。消費者物価の前年比は、当面、ゼロ%近傍で推移するとみられる。
- 10 月の「展望レポート」で示した見通しと比べると、2011 年度の成長率は、海外経済の減速に加え、過去の実績値の改定の影響もあって、下振れるとみられる。
もっとも、わが国経済は、2012 年度前半には、緩やかな回復経路に復していくとみられ、2012 年度および2013 年度の成長率については概ね見通しに沿って推移すると予想される。物価については、国内企業物価・消費者物価(除く生鮮食品)とも、概ね見通しに沿って推移すると予想される。物価面では、国際商品市況の先行きについては、上下双方向に不確実性が大きい。また、中長期的な予想物価上昇率の低下などにより、物価上昇率が下振れるリスクもある。 - 景気のリスク要因をみると、欧州ソブリン問題は、欧州経済のみならず国際金融資本市場への影響などを通じて、世界経済の下振れをもたらす可能性がある。米国経済については、このところ一部に底堅い動きもみられているが、バランスシートの調整圧力は引き続き経済の重石となっている。新興国・資源国では、物価安定と成長を両立することができるかどうか、なお不透明感が高い。海外金融経済情勢を
巡る以上の不確実性が、わが国経済に与える影響について、引き続き注視していく必要がある。
物価面では、国際商品市況の先行きについては、地政学リスクの影響を含めて、不確実性が大きい。また、中長期的な予想物価上昇率の低下などにより、物価上昇率が下振れるリスクもある。 - 日本銀行は、「中長期的な物価安定の理解」(注2)に基づき、物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで、実質ゼロ金利政策を継続していく方針である。また、日本銀行は、資産買入等の基金の規模を累次にわたって大幅に増額することにより金融緩和を強化してきており、そのもとで、金融資産の買入れ等を着実に進めている。日本銀行としては、こうした包括的な金融緩和政策を通じた強力な金融
緩和の推進、さらには、金融市場の安定確保や成長基盤強化の支援を通じて、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰するよう、中央銀行としての貢献を粘り強く続けていく方針である。
以 上
<議事要旨公表>
http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/minu_2012/g120124.pdf
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