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2002年の「世界週報」論文に中村哲さんを引用2019年12月08日

2002年の世界週報の私の論文に中村哲さんを引用していました。国会質問でも何回か紹介していますが、この論文が今後のでアフガニスタンに意味を持つと思い、掲載させて頂きます。

「アフガン内戦回避に不可欠な『三種の神器』」
~国軍の統一、国家歳入の確立、国家予算の策定~

前衆議院議員
(民主党) 藤田 幸久

「もしザヒル・シャー元国王が大統領になったら、内戦に突入していたろう!」とブラヒミ国連事務総長特別代表は私に語った。就任後2ヶ月を迎えたカルザイ大統領の暗殺未遂事件は、タリバン残党のテロを抑える一方で、群雄割拠の軍閥を統治できるかの正念場にさしかかったことを示している。カルザイ大統領を「裸の王様」にしないためには、国軍の統一、国家歳入、国家予算の確立を支援する国際社会の意思統一が急務だ。

日本人に対するビザの即日発給を即決

 私は6月末に民主党訪問団の団長としてアフガニスタンを訪問し、緊急ロヤ・ジルガ(国民大会議)での移行政権発足後日本人として初めてカルザイ大統領、ファヒム副大統領兼国防相、アブドラ外相などの主要閣僚と個別に会談した。

 カルザイ大統領は「もはや北部だ、南部だという地域も、パシュツーン人だ、タジク人だという区別も、軍閥もない新しいアフガニスタンの始まりだ」と熱い思いを語ると共に、日本との交流を促進するために在日アフガニスタン大使館の早期開設を表明した。

アブドラ外相との会談で、日本のNGOのボランティアが入国ビザ取得のために隣国パキスタンで1週間も待たされるという窮状を私が伝えると、外相は「明日から、パキスタン、イラン、アラブ首長国連邦(UAE)の隣接国で申請を行なう日本人に対してはビザの即日発給をさせます」と即座に決定してくれた。同席していた日本の駒野大使がびっくりして、ビザ担当の人手が足りないのではと聞くと、外相はカブールの外務省への照会を省くことによって可能にすると答えて、直ちに補佐官に指示を与えた。

こうした実務家を配したカルザイ政権の主要閣僚からは、汚職追放や地域・種族間の対立解消への強い決意と共に、即断即決ができる強いリーダーシップが感じられた。日本のリーダーに欠ける資質であると共に、和平後のカンボジアやジンバブエなどで指導者の独裁、汚職、強権政治が障害になったのに比べて、大きな恵みと言えよう。

和平なき軍閥の戦国時代

 そもそも私は、鈴木宗男によるNGO排除問題で有名になった1月の東京におけるアフガニスタン復興支援会議は時期尚早で、平和の構築と治安維持が先決ではないかと感じていたが、今回の訪問や暗殺未遂事件の発生によってその理由が明確になった。それは、カンボジアや、コソボや東チモールとは異なり、「アフガニスタンにはそもそも当事者間の和平合意が存在しない」ということである。

「三百年も平和が無かった」と言われるこの国は、1989年のソ連撤退以降は国際社会から見放され、内戦が激化した。ナジブラ政権、ムジャヒディン政権、そしてタリバン政権と続く内戦の中で、地方の軍閥達は、隣接するパキスタン、イラン、ウズベキスタンなどの代理戦争を戦ってきた。密貿易、通行税や麻薬栽培による膨大な収入によって戦車や戦闘機までも手にいれ、各地に独立王国を築いてきた。最終的に全土を統治したタリバンを、軍閥達は昨年10月に始まるアメリカ軍による掃討作戦のお先棒を担いで追い出すことに成功した。

 つまり、軍閥達は自分は勝者であり、自分達の助けがなければアメリカは何もできないと思って互いに勢力争いを行なっている。 米軍は「敵の敵は味方」の論理で各地域の軍閥を使い、その手引きで作戦を展開している。7月の結婚披露宴会場へのアメリカ軍の誤爆で80人を死亡させた事件や、昨年12月、軍閥がタリバンの捕虜をコンテナに詰め込んで移送し、千人近くを虐殺したという事実が最近CNNなどで報道されている。軍閥の圧制に手を貸す米軍に対する反発から、米軍兵士に対する住民の襲撃も今年になって1000件以上とも言われるが、米軍はこれを隠して事故として処理している。

 18年も農村で医療活動を行なっているペシャワ-ル会の中村哲医師は、

「タリバンは元々一般農民による社会運動で、悪代官の軍閥を倒そうとしていた。強盗もなく、治安も良く、地方役人もしっかりし公共事業もうまくいっていた。そこにアルカイダが入り込んで外国人に荒らされてしまった。カルザイ政権は大きな砂山の上の皿のようだ。タリバン時代より治安も、役人の汚職や横暴、麻薬の栽培も増えた。国際治安支援部隊(ISAF)が引き揚げれば、カブールは1週間ももたない。このままだと、東部で少数民族による武装ほう起が自然発生的に起こる気がしてならない。」と心配を吐露してくれた。

内戦回避が最重要課題

新政権発足後、7月6日のカディール副大統領の暗殺や、9月5日のカルザイ大統領の暗殺未遂事件、軍閥同士の衝突やアメリカ軍やISAFに対する襲撃も続いている。

「もしザヒル・シャー元国王が大統領になったら、内戦に突入していたろう!」とブラヒミ国連事務総長特別代表は私に語った。タジク人とパシュツーン人とのバランスを少しでも誤ると直ちに内戦に立ち戻るという現政権の脆弱性を示している。 「砂上の楼閣のような」カルザイ政権の最大の使命は、和平の樹立、つまり「内戦の回避」である。それには、これまでの和平・復興プロセスで国際社会が犯した轍を踏むことなく、同政権を後支えするしか道はない。総選挙が行なわれる2年以内に米軍や国連への依存から自立できる地力を移行政権に与えるために、今国際社会が取り組むべき支援は以下の通りである。

1 国軍の統一。

 カルザイ大統領は6万人規模の国軍の創設を計画し、50万丁とも言われる武器回収と、20万人とも言われる軍閥兵士の武装解除と国軍への統合を目指している。

 これを実現するには、トルコ軍の指揮のもと30カ国5000人の兵士から成り、首都カブール近郊のみの治安維持活動を担っているISAFを、地方展開させることが不可欠である。なぜなら、現在行なわれている武器回収や動員解除も軍閥間の主導権争いの様相を見せているからだ。北部の有力軍閥ドスタム将軍の側近ヒラル・カン氏は「我々は武器回収に積極的に協力しているが、アタ・モハメド派が中央政府の政策に従わない場合は我々がつぶしていく。」と答え、武器回収を敵対勢力の封じ込めに利用していることがうかがえた。またISAFが訓練するアフガン治安部隊でもタジク人将校とパシュツーン人兵士との間の摩擦が問題となっている。最近国連のアナン事務総長や日本政府の緒方貞子特別代表もISAFの主要地方都市への限定拡大を提案している。復員兵の雇用や給与の財源を確保して、社会復帰を進めることが重要である。日本政府げ計画している2万人の元兵士の動員解除、職業訓練や復興作業への活用なども効果的である。

 しかし、何よりも重要なのは、現在、軍閥の協力のもとでアルカイダ掃討作戦に参加している7000人のアメリカ軍が、その作戦に区切りをつけ、現在は参加していないISAFに加わり、軍閥も含めた国軍の統合を支援することである。これが、自らの軍を持たないカルザイ大統領を裸の王様にしない最大の鍵である。

2 国家歳入の確立:望まれるドナー国からの経常費支援

 内戦が続き、農業以外に主要産業を持たないアフガニスタンでは中央政府の歳入源がほとんど存在しない。唯一の財源である関税収入も地方の軍閥が国境貿易や通行税などで徴収し、財務省には入らない。最近イラン国境を支配するイスマイル・カーン知事が200万ドル、ウズベキスタン国境を支配するドスタム将軍が10万ドルを納税したが、彼らの税収のほんの一部に過ぎない。

 歳入が乏しいため、公務員、兵士、警察官などの給与が滞り、中央政府が機能していない。

 内戦回避のためには中央政府の地力を強化するしか道はなく、私が会見したアシュラフ・ガニ財務相が求めたように、各国政府による経常費への直接財政支援が最も効果的と思われる。従来は復興支援プロジェクトを国連などが担い、それにドナー国が二国間援助を行なうというやり方である。ドナー国側が目に見える援助を望むのに加え、復興国の政府を信用していないという事情もある。しかし、このやり方だと復興国はいつまでたっても国際機関に従属したまま自立できない。援助も国連の人件費などに多くが割かれ、復興国の実が少なくなってしまう。

 カルザイ政権では、アフガニスタン援助調整機関(AACA)という世銀や国際機関出身者などを中心とする透明性と説明責任の明確な、大統領直轄の受け皿機関ができた。政府自身が復興の「所有権」を持つという試みで、国連が直接的に復興を取り仕切る従来の手法とは異なる。イギリス、オランダ、スカンジナビア諸国などは経常費支援を支持しているのに対し、駒野大使はケースバイケースとは言うものの、日本やアメリカはまだプロジェクト毎の二国間援助が中心である。今回は各国が「目に見える援助」という手柄争いを止めて、経常費への直接財政援助を実現すべきである。

3 国家予算の策定

 カルザイ大統領に最も近い実務派閣僚が、ジョンズ・ホプキンス大教授や世界銀行副総裁を務めたアシュラフ・ガニ財務相である。首相ポストの無いこの政権にあって実質的な首相役を務めている。彼が6月まで議長を務めたアフガニスタン援助調整機関(AACA)は、100万ドル以上の復興案件を全て決済する他、(1)予算策定、(2)優先順位の設定、(3)腐敗対策、(4)政策協議メカニズムの設定を担う。省庁毎にプログラムを策定するのではなく、省庁を超えた大統領主導の取り組みを行い、現在12の国家プログラムを策定している。財務大臣、AACA,ドナー国間の定期協議を開催するなど機能的な動きを行なっている。

 裸の王様に必要な国軍、国家歳入、国家予算

 外国からの援助案件別支援は政府内の利権争いに陥り易いし、国連が財源を握っていてはカルザイ政権の地力はつかない。各国からの財政支援を財務省に一本化し、AACAを中心とした大統領による国家予算の策定に国際社会は連携した支援を行なうべきであろう。

「世界で最も貧しい国」を再び戦乱に戻さないために、国際社会は手柄争いを止めて、カルザイ大統領に国軍、国家歳入、国家予算の三種の神器を与えるべきだ。