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サウジ石油施設破壊と米国ドル・安保体制への大打撃2019年10月11日

  臨時国会が始まりました。衆参本会議や衆議院予算委員会を散見している限り、「世界の不都合な現実」とはかけ離れた議論が展開されている気がします。 9月14日のサウジアラムコ石油関連施設の破壊は、単なる石油価格高騰や米国とイランとの対立とは別次元の米国ドル体制と安保体制への重大なダメージを与え始めています。

1 米ドル下落及びサウジからのオイルダラーの米国環流激減 サウジアラムコの年間純利益は約12兆円で、2位ロシアのガスプロム 約2.7兆円、3位英蘭のロイヤルダッチシェル約2.2兆円、4位米国のエクソンの約1.9兆円とはけた違いの1位です。アラムコの利益は2位以下のオイルメジャー6社の利益合計をも上回っています。

  世界原油生産量の約10%を占めるサウジアラムコの巨額取引を米ドル建てにさせ、また巨額収益12兆円を米国債等の米国資産で運用させることによって、米国の財政及び経済を支えてきたのです。今回この構造に破綻が生じ、オイルダラーによる米国への還流が困難な状況に至っています。 元々米国がオイルのドル建て輸出やオイルダラーの米国への巨額の環流を強要して来たサウジアラムコの今回のダメージは、ドルを基軸とした世界金融の流れを変える可能性すら秘めています。

2 サウジアラムコの2兆ドルのIPO(新規株式上場)が困難に サウジアラムコ石油施設破壊を受け、サウジの株式市場は大幅に下落しました。サウジアラムコのIPOの年末実施にむけJPモルガン、モルガンチェース等は11月に投資家向け説明会の開催を準備していました。  今回のアラムコ石油関連施設攻撃は、IPOの実施を妨害するという目的もあった可能性もあります。サウジアラムコは2兆ドル評価IPOを実現し、10%をフロートさせる事により2000億ドルの資金調達を可能にする史上最大規模のIPOによる巨額資金調達を計画していたと言われています。サルマン皇太子が推進している、この巨額調達資金を利用した脱石油経済に向けた国家経済改革プロジェクト“Vision 2030”を妨害するためです。

 トランプ大統領の2017年の大統領就任後の最初の訪問国はサウジアラビアだったこと。今年6月29日G20で大阪に滞在中のトランプ大統領とサルマン皇太子は朝食会を行い、トランプ大統領はサウジアラビアの米国製兵器購入に謝意を表明し、イラン問題等も話しあったなど、二人の親密な関係は特別です。 (因みにソフトバンクは2016年に”Vision2030”と運命共同体とも言われている10兆円超規模のソフトバンク・ビジョンファンドを立ち上げています。)

3 米国製ミサイル防衛システムの信頼性喪失  今回のドローンと巡行ミサイルの高度連携による攻撃に米国製ミサイル防衛システムが機能しなかったことが露呈しました。  サウジアラビアは世界3位の軍事費支出国で、米国や英国等から昨年$67.7bnの軍事防衛機器を購入し配備していての結果です。

他方、ロシアはドローン攻撃などへの防衛も可能なロシア製空中防衛システムであるS300やS400を既にイランとトルコで稼働中です。 9月16日トルコのアンカラでの、トルコのエルドアン大統領とイランのロウハニ大統領との3か国首脳会議の中でロシアのプーチン大統領は、サウジアラビアに対して、石油関連施設をドローン攻撃から守る為にロシア製空中防衛システムの購入を持ち掛けました。(9月16日付Russia Today紙。“Putin to Saudi Arabia: Our air defences can protect you, like they do Turkey and Iran”  米国がサードを売りつけたい日本では、こうした米国に不利なニュースは報道されません。ドローン攻撃が主流となって来た今、米国の安保体制の信頼性が疑問視されています。  こうした観点からも、サウジ施設攻撃が誰によって行われたかを検証する必要があります。 (これらは、フィナンシャル・タイムズ紙、ウオールスストリィ―ト・ジャーナル紙、エコノミスト誌、ロシア・トゥディー紙などの記事を参考にしています。日本のメディアはこうした現実をあまり報道していません。写真はロイター)

攻撃に使われたドローンの残骸